身と心は一つである……身心一如説

ところで、道元禅師は身心一如と説く。

仏法においては、もともと身と心は一つであり、本性と相〔すがた〕は二つのものではない、と言っている。このことは、印度においても中国においても常識であって、全く疑うべきではない。常住（変化しない）というのであれば、万法諸法（あらゆるものごと）が総て常住であり、寂滅（なくなってしまう）というのであれば、すべて寂滅である。身と心、性と相を分けることはない。また、生死（生死輪廻）がそのまま涅槃であり、生死のほかに涅槃を語ることはない。

（『弁道話』）

身心一如とは、身体と心はまさに一つであるということである。であれば、この肉体が滅するときに、つまり死ぬときに、総てがなくなってしまうのであり、輪廻転生を否定しているかのように思える。しかしそうではない。道元禅師は、ここにあるように生死輪廻のほかに涅槃はないことを説いているし、次の項に述べるように、明らかに生死の連続を説いている。

生生世世の積功累徳……輪廻説

たとえ天上・人間、地獄・鬼畜であっても、感応道交すれば、かならず仏法に帰依する。すでに帰依すれば、生生世世、在在処処に増長し、かならず積功累徳し、阿耨多羅三藐三菩提を成就するのである。

（『正法眼蔵』「帰依三宝」）

ここに、生生世世の積功累徳が示されている。我々人間は、生まれ変わり死に変わり、世を変え所を変えて、その一生一生において功徳を積み累ね、遠い未来において、釈尊のような最高の人格を完成する、そのような存在であるというのだ。

そのためには、仏教に帰依し、できれば出家して、仏としての戒律を授かり、出家者としての人生を重ね、功徳を積み重ねるのがよいと言う。

われわれは宿善根力（前世での善行の功徳の力）にひかれて最勝の身（南洲の身、人間の身）を得たのであるから、歓喜随喜して出家受戒すべきである。出家の生生をかさねれば功徳が積み累ねられる。

（『正法眼蔵』「出家功徳」）

であるからこそ、生生において仏・法・僧の三宝に帰依することが大切であり、『正法眼蔵』「道心」（別本仏道）では、

この生を捨てて、未だ後の生に産まれていないその間に中有ということがある。そのいのちは七日である。…七日を過ぎると中有に死んで、また中有の身を受けて七日がある。いかに永くても七日を過ぎることはない。…すでに中有を過ぎて、父母のほとりにいざ近づくときも…母胎の中にあっても…産まれおちようとする時も、三宝（「南無帰依仏、南無帰依法、南無帰依僧」）を唱えることを怠ってはいけない。

というように、生まれ変わりの様子を克明に語っているし、常に心を励まして三帰依を唱えることをすすめている。

また、道元禅師は言われる、

ある者はこう言っている、「人は死ぬと必ず性海（不生不滅のさとりの世界）に入る。仏法を修習しなくても、自然に覚海　 （性海）に入るので、けっして生死の輪廻はない。だから後世（来世）はない」と。これは断見の外道である。

死ねば誰でも必ず悟りの世界に入るのであるから、仏法を修行しなくてもよいとか、生死の輪廻は無いとか、後の世は無いとか、そういう考え方は断見であり、外道である（仏教ではない）というのである。

道元禅師、こうのように生生世世の転生を説き、その生生において仏道を修行すべきことを教えているのである。

身心一如説と輪廻説

先の身心一如説と、今の輪廻説とは、一見矛盾した説のように見えるがそうであろうか。先に述べたように身心一如と言えば、この身の滅するとき、心もまた滅し、すべて無に帰するように考えたくなるが、道元禅師の身心一如は、どうもそのようなことではない。なぜなら、決して来世や輪廻を否定しているのではないからである。この身心一如説は、修行の実践の大切さを述べる中で示されていることは注目すべきで、つまり、身とは別に、身とは隔別の、すなわち身による修行とは関わらない（身の修行を必要としない）本来清浄なる心（性）、本来完成された円満な心（性）の存在を否定されたのであると受け取ることができるのである。

それは「輪廻の主体」の否定ではなく、「輪廻の主体」がもとより完全無欠なさとりとしての存在ではないということの主張である。「修行の功徳」を積み上げて行くものとしての「輪廻の主体」は認めていると考えざるを得ないのである。つまり、道元禅師の「身心一如」とは、身業（身体的行為＝修行 ＊もちろん口業、意業も含むべきであろう）が、心的〝なにもの〟（輪廻する主体）に密接に関わるということである。ゆえに、修行の必要性を説き、積功累徳（功徳の積み累ね）の重要なることを示されたのである。これが、道元禅師の輪廻説に直結するのである。であれば、道元禅師にとって、身心一如説と輪廻説とは決して矛盾するものではない。むしろ契合するものである。すなわち、身心一如なのであり、今世後世があるのであり、因果歴然であり、輪廻があるのである。

仏道は遥かなる道…少しでも釈尊に近づきたい

道元禅師の主著である『正法眼蔵』は、和文で書かれた法語であるが、これには古写本として、七十五巻に編集されたもの（七十五巻本）と、十二巻に編集されたもの（十二巻本）があり、後者は道元禅師晩年の編集であると考えられている。十二巻本の構成は、出家の功徳を説かれた「出家功徳」巻を第一とし、仏道修行の道程における要諦を示した巻巻が続き最後の第十二は、釈尊最後の所説である「八大人覚」巻である。通読してみると、仏道が〝遥かなる道〟であることを感じる。その最後の言葉（現代語訳）が次の言葉である。

仏法にあうこと、人身を得ることは難しい。その人身を得ることも三洲の人身がよいが、その中で南洲の人身がすぐれている。見仏聞法、出家得道するからである。いま、この八大人覚を習学したのであるから生生に増長し、かならず無上菩提にいたり、衆生のためにこれを説くことは、釈迦牟尼仏と同様で異なることなくありたい。

（『正法眼蔵』「八大人覚」）

道元禅師自身も、その生涯において仏道が完成されたとは思っていない。釈尊に近づきたいという思いが窺われる。

私の思うに、輪廻転生ということは、一般的には信じがたいことであろう。しかし、大いなる仏道に対して謙虚であれば、仏道は遥かなのである。たとえ仏教に帰依して出家し、仏道を修行したとしても、今生において釈尊のような完成した人格が得られるというものではない。私も、遥かなる仏道の一生涯として今生を生きたいと思う。これは有所得の心からではない。ただ、大いなる仏道のために。そして、たとえ来世がなかったとしても私はそれでいいのだ。

ただ、仏道のために、仏道を行ずるべきである。

（『正法眼蔵随聞記』）

続きを隠す<<

出家を志す若者が増えている。彼らの多くは、現実社会を厭い、そこからの解放と自由を求めて出家する。彼らはそれぞれ、生きるとは何か、人生とは何か、悟りとは何か、真の幸せとは何か等、本質的な疑問を持ち、それらを真剣に考えている。出家とは、そのような疑問を解決することのできる世界であると思い、また、世間の煩わしさのない平穏な生き方のできる世界であると考えている。

彼らの多くに共通して言えることは、出家したいのであって、寺院の住職になりたいのではないということである。寺院の住職になることは、出家の目的と反するからである。が、そのことに気付くのは、たいてい出家して後のことである。

寺院の住職は、世間と密接に関わっている。いや、世間のしがらみの中にあるといってもよい。檀家を持ち、葬式や法事等の檀務をつとめなければならない。一般社会の共同体の中でそれなりの役割も務めなければならない。

教団組織も複雑となり、全国がいくつかのブロックに分かれ、さらにその中が宗務所や教区に分けられて、その管轄下にある寺院および寺院住職は、教団の中での種々の役職をも務めなければならない。教団の行政は、国政を模して組織化され、選挙や議会も行われる。今や既成仏教教団の多くは、世間と何ら変わりがない。

ゆえに、現実の世間を厭い、これとは別の世界であるはずの世界を求めて出家した若者は、既成仏教教団の現実を知って戸惑う、こんなはずではないと。そして、このような既成仏教教団の現実から、さらに逃避しようとする。

私は彼らを意気地なしとは思わない。むしろ、彼らの願うような僧伽（仏教の教えに基づく理想的な共同体＝叢林）が既成仏教教団の中に十分用意されていないことを憂える。

また最近、停年退職を間近にして、第二の人生を出家者として生きることを希望する壮・老年層の人々が出てきている。彼らは、小さな庵にでも入って、経を読んだり、写経をしたり、念仏をしたり、坐禅をしたりして、「修行」という自分探しの第二の人生を歩みたいとこころざす。

中には、真剣に仏教を勉強すべく、昼間は職場に勤務しながら、夜間の仏教系の大学に入学して若い学生たちと共に学び、退職後は本格的な叢林（修行道場）に入って修行し、いずれは住職となって小さな寺にでも入りたい、と念願している方もいる。

しかし現実の叢林はかなり厳しく、老年たりとも容赦はしない。二十代の若き修行者に混じっての、同等の修行を求められる。彼らはそれを知って尻込みする。

私は、出家を志す若者や、自分探しの第二の人生を歩みたいと志す壮・老年層の人々に少なからず接して、彼らの願いに応えることのできない私や宗門をやるせなく思うようになった。と同時に、新しい寺院づくり、在家のための新しいサンガの設立を考え始めている。そして、その新しさを、かえって釈尊や道元禅師に感じるのである。

今、我々は、何をすべきなのだろうか。大いに語り合う機会をもちたいものである。
続きを隠す<<

ところで、私はこの大宇宙がいったい何時誕生したのか知らないが、一二〇億年前という説を聞いたことがある。途方もなく永い時間であるが、無限の過去ではない。そして、生じたものは変化し、いずれは必ず滅するのであるから、我々が住んでいるこの地球とて、何十億年後には消滅するに違いない。そして、その前に人類は宇宙に逃れるか、滅亡するのであろうが、宇宙に逃れたとしても、その宇宙さえ、時間的にも空間的にも有限である。その後には何が残るのか、その後の世界もまた「空」なる世界である。

世界遺産といって大切にしても、いずれは全てが消滅する。ましてや個人が所有する財産など、朝の露のようにはかないものであり、その財産を守ったり奪ったりするために大切な命を犠牲にすることは愚かなことである。とはいえ、その大切な命にも何れは終焉が訪れるのであるから、その命にでさえ執著してもどうしようもない。

まったく、人生は夢、この世は夢幻のような世界である。

夢のような世界のほかに現実はない

「夢中説夢」という言葉がある。「夢中に夢を説く」と読み、夢の中で夢を説くこと、「今日、こんな夢をみたよ」と夢の中で他人に話している様子をいう。夢のまた夢、何とも実体のない、夢幻のことをいう。通常は、この現実世界のすべての現象が、固定的実体がないことを示す言葉で、「所詮この世は夢のようなものだ」とか「夢のようにはかないものだ」という意味に使われる。しかし、道元禅師は異なった解釈をする。

夢中にあらざれば説夢なし、説夢にあらざれば夢中なし。説夢にあらざれば諸仏なし、夢中にあらざれば諸仏出世し転妙法輪することなし。

（『正法眼蔵』「夢中説夢」）

〈夢の中でなければ夢を説くことはない、夢を説かないのであれば夢の中ではない。夢を説かないのであれば諸仏はいない、夢の中でなければ諸仏が現れてすばらしい教えを説くこともない。〉

何を言っているのかというと、この夢のような世界のほかに現実はなく、そして、この夢のような現実の世界の中に諸仏が存在し、すばらしい教えを説いているのであると言うのである。

人生は「夢中説夢」のようなものであるが、「夢中説夢」のような人生こそ現実の人生であり、それ以外に生きる道を求めても、この現実以外に生きる道はないということである。

現実をよりよく生きる

私たちには現実の世界、現実の生活がある。この現実の世界のほかに、理想の世界を求め、この現実の生活のほかに生きる道を見つけようとしても、そのような世界は、どこを探してもなく、現実の生活を生きるほかに、生きる道はないのである。

その現実を、どう生きるか。それが問題である。

「どうせ夢のような人生なら、せいぜい勝手気ままに、思い通りに生きればいいさ」とも考えたくなるが、そのような生き方ができて、自分も楽しく、周囲も幸せなら、それはそれでばいい。しかし、人生はそうはいかないものである。

思い通りにしようとしても思い通りにならずに苦しみ、勝手気ままに振る舞えば、他との軋轢が生じて苦悩する。

先に述べたように、この世界が何れなくなるにしても、人生が夢のようにはかないものであるとしても、それ以外に現実はないのであるから、いま直面する現実をよりよく生きたい、そのような生き方が、仏教で説く生き方である。

仏教が教えるよりよい生き方

仏教では「八正道」という、現実の人生をよりよく生きるための八つの実践を説く。

一、正見（しょうけん）…正しい見解・信仰。何か事業をなす場合の全体的な、将来的な見通しである。「私だけよければ」「今さえよければ」ではなく、「皆がよいように」「将来にわたってよいように」という考え方をすることである。

二、正思惟（しょうしゆい）…正しい意志・決意。自分の立場・役割などを常に正しく考えて意思することである。この社会における私の役割は何か、私に何ができるのか、と考えてその役割を全うする生き方である。

三、正語（しょうご）…正しい言語的行為。嘘を言わず、悪口を言わず、やさしく思いやりのある言葉を語ることである。日常生活のなかでは言葉の遣いようで、人間関係が良くも悪くもなる。言葉はとても大切である。

四、正業（しょうごう）…正しい身体的行為。他人を傷つけたり、暴力をふるったり、他人のものを盗んだりして、他を害することをせず、他人に利益を与える行いをすることである。

五、正命（しょうみょう）…正しい生活法。規則正しい生活をすることである。生活規則を整えれば、自然と心も整うものである。

六、正精進（しょうしょうじん）…正しい努力・勇気。正しい方向にむかって努力すること。正しい方向とは、他の七つのような方向である。

七、正念（しょうねん）…正しい意識・注意。ちょっとした不注意が大惨事を招くこともある。常に意識をしっかりともって注意して生きることである。

八、正定（しょうじょう）…正しい禅定。心を静め、精神を安定させて生きること。冷静になっていなければ正しい判断はできないものである。静かに坐って自己を見つめること。

これがまさに現実世界をよりよく生きるコツである。「空」の世界の生き方である。

夢のような現実であるが、その現実を迷って生きれば、それは凡夫の世界、目覚めて「八正道」のような生き方ができれば、そこが仏の世界なのである。


続きを隠す<<

自未得度先度他

「自未得度先度他」の心とは、他の一切の人々を先にあちら岸に渡してあげようと願う心です。まず先に私が渡ろうとするのではないのです。自分はこちら岸にいて、ほかの人々を先にあちら岸に渡してあげようと願い、実践することが、「さとりの心」をおこすということであると、道元禅師は示されているのです。

こちら岸を理想の世界に

ところで、もし、この心を持つ人が、こちらの岸に一人増え二人増え、そしてもしも仮に、こちら岸の全ての人がこの心を持ったとき、いったいどうなるのでしょうか。あちらの岸に渡ろうとする人は、誰一人いなくなります。その時、もう、あちら岸は必要ないのです。なぜなら、こちら岸が理想の世界になっているからです。私たちの世界が「自未得度先度他」という心を持った人たちでいっぱいになれば、きっと私たちの世界は、すばらしい世界になっていることでしょう。道元禅師が目指された理想の世界とは、そのような世界であったと思われます。

道元禅師の心を受け継がれた瑩山禅師

この道元禅師の教えをしっかりと受け継がれ、世の中に広められたのが、總持寺の御開山瑩山禅師です。道元禅師から代々この教えが受け継がれ、四代目の瑩山禅師に至って、みごとに花開きます。瑩山禅師はこの「自未得度先度他」を願いとし、自ら実践され、それが大勢の弟子たちに受け継がれて、今日の曹洞宗の確かな礎が築かれたのです。

お先にどうぞ！

「自未得度先度他」の心とは、簡単に言えば「お先にどうぞ！」ということです。それがさとりの心なのです。なーんだ、「さとり」ということはそんなに簡単なことなのかと思われるかも知れませんが、実践することはとても難しいのです。実践できなければ、ほんとうにさとっているとは言えないのです。私たちは、つい「自分が先に」と思ってしまいます。絶ちがたい吾我（エゴ）の心を持っているからです。この心を「お先にどうぞ！」という心に変えること、それが修行であり、さとりであるとも言えます。

お彼岸を迎えるにあたり、どんな小さな事でもかまいません。ぜひ「お先にどうぞ！」を実践してみて下さい。それが、私たちの現実の世界（此岸）を、理想的な仏の世界（彼岸）に変える確かな一歩なのです。


続きを隠す<<

作仏から行仏へ

もうしばらく難しい話をさせていただくが、道元禅師の坐禅は「作仏」から「行仏」へと転換したところに大きな特徴がある。道元禅師は言われる、

仏道を学ぶ（行ずる）うえにおいて、参じ究めるべきことは坐禅をつとめることである。その坐禅の基本的あり方は、「作仏」（仏になること）を求めない「行仏」（仏を行うこと）である。

（『正法眼蔵』「坐禅箴」）

と。坐禅は仏となることを目的とした行ではなく、まさに「仏の行」であると道元禅師は言われる。

この道元禅師の坐禅の特徴を説明するのに、しばしば引用される話に、『景徳伝灯録』巻五の南嶽懐譲禅師章にある、南嶽懐譲（師）と馬祖道一（弟子）の「磨磚作鏡の話」がある。この話の解釈に、道元禅師の坐禅観が実に特徴的に表れている。その話はこうである。

馬祖はよく坐禅をしていた。南嶽は馬祖がすぐれた人材であることを認め、あるとき坐禅をしている馬祖に尋ねた。
南嶽「おまえは坐禅をして何をしようとするのか？」。
馬祖「仏になろうと思います」。
すると南嶽は磚〔かわら〕を取り、それを磨きはじめた。
馬祖「何をしておられるのですか？」。
南嶽「磚を磨いて鏡を作ろうと思っている」。
馬祖「磚を磨いて、どうして鏡になりましょうか」。
南嶽「坐禅してどうして仏になれようか」。

さらに問答は続くが、この話は、馬祖の坐禅に対する執着を戒めたものとして通常は解釈される。つまり、磚を磨いても鏡にならないように、いくら坐禅をしても、坐禅の修行のみによっては仏になることができないというのである。

中国禅の基本的立場は、開悟は坐禅修行によってのみなされるのではなく、生活全般の中に見出だされなければならないということである。この立場を日本の臨済宗は継承していると言える。

しかし、道元禅師は、『正法眼蔵随聞記〔しょうぼうげんぞうずいもんき〕』でこの話を取り上げ、まったく別の解釈をされている。

南嶽が磚を磨いて鏡にしようとしたのは、馬祖が仏となることを求めたのを戒めたのである。坐禅を制したのではない。坐禅は仏の行である。

（『正法眼蔵随聞記』巻三）

つまり、坐禅のみを開悟の修行とすることを戒めたのではなく、仏となることを目的とした坐禅を戒めたと解釈するのである。いかなる目的ももたずに「ただ坐る」、それが道元禅師が普く勧める坐禅の仕方であり、われわれ曹洞宗の坐禅である。坐禅はまさに仏行（仏の行）であるのである。

さて、以下は、道元禅師の坐禅の難しい説明ではなく、私が道元禅師の教えをもとに自分なりにとらえた坐禅について自由に述べてみようと思う。

求めず坐る

道元禅師の教えにしたがい、その生涯を坐禅で貫かれた沢木興道老師は、ひとに「坐禅は何になる」と問われると「何もならぬ」と答えたという。

「何もならぬ」とは、人間の為にはならない、ということであり、人間の欲望の為にすることではないということである。坐禅に損得勘定を持ち込んではいけないということである。

悟りたい。悟って人から尊敬される人間になりたい。……すばらしい志のようではあるが、そんな思惑をもって坐禅をするのは、所詮、世法（人間の世界）の坐禅である。仏法（仏の世界）の坐禅ではない。

沢木老師は言う、

何にもならぬことをせいというのは人間界では全く意義のないことである。一週間坐禅して、何か得るものがあると、つまり公案の一つや二つ通るとか、見性するとか、……そうすれば張り合いがあるものである。そのような張り合いのよいのが好きなのが人間の世界である。それは仏法の世界ではない。
人間が仏法を取り扱うものだから、仏法までも人間界へ引きずり下ろしてしまう。そこに病が生ずるのである。
坐禅は安楽の法門というけれども、こんな足の痛いことをして、どこが安楽じゃという者がおる。坐禅をするのは、仏の修行された道だからするのである。仏道修行というのは、仏のまねをすることである。自分のかなう程度まねをすることである。そのまねを人間のために役立てようと思うのが禅病のおこるもとである。

と。

坐禅をやって何になる？　何かのためにならなければやらないというような者は、坐禅をあえてしなくてもよいのである。

確かに坐禅には効用がある。すばらしい功徳がある。だからこそ二千五百年以上も昔から今日に至るまで坐禅が行われてきたのであろう。その医学的効用は参考までに後に述べるが、しかし、そのような功徳を求めて仏祖は坐禅をしたのではない。その効用を知っても、それを目的としてはいけない。なぜなら「求めず坐る」、そこにこそ真の功徳が現れるのであるから。

さて、坐禅においては、いかなる人間的欲求も、まず断ち切っていただきたい。健康になりたい。病気を直したい。度胸をつけたい。何か特別の心境になりたい。他人より偉くなりたい。特別な能力を身につけて他人の関心をよびたい、等々。人間的な欲求や希望は仏道を異質なものにしてしまう。

オウム真理教の幹部たちは、麻原教祖に認められようとして、競って修行に励んだという。修行の目的が、教祖に認められようとの打算に変わり、教団内部においてより高い地位に付きたいという名誉欲に走ったとき、彼らは自らの行いの正しい判断を失い、ただ大きな権力に従って殺人集団と化していった。

正しい仏教における修行は、他に認められる為にするのではない。それでは形式は仏法であっても内容は世法以下となろう。

ところで、仏法は他に認められる為に行ずるのではないが、とはいえ、自分の為にするのかというと、そうでもない。仏法は自他を越えるのである。道元禅師は言われる、「ただ、仏法の為に仏法を修するのだ」と。

「ただ、仏法の為に仏法を修する」。この言葉の意味を、よくかみしめていただきたい。真に理解できる読者は、道元禅師を少しく理解できたと言える。が、これを実行することは、また実に難しい。

えせ坐禅

「精神統一」。坐禅を、精神の統一・集中か、あるいは瞑想か何かと思っている人がいる。何か一つのことに精神を統一・集中させるのが目的だというのなら、パチンコでも麻雀でもファミコンでも、何でも好きなことをやることの方が、よほど精神を集中できる。

それではあまり健康的ではないから、もっと体によい精神統一をはかりたいというのであれば、何か好きなスポーツでもやる方がよい。

でもやっぱり「坐禅」がいいのです、と言う。それは、坐禅が精神統一ではないからである。

「無念無想」。どうも私は無念無想というわけにはいかなくて、いろいろな思いが浮かんでまいりまして……、と言う人がいる。坐禅をしているときは無念無想の状態でなければならないと勘違いしている人がいるが、坐禅は無念無想になることを目的とする修行ではない。無念無想とは、生命活動を放棄することである。頭に想いが浮かぶということは、われわれの正常な生命活動である。腹が減ったり、眠くなったりするのと同じである。決して嫌うべきことではない。自然であっていい。ただし「よし、今日は坐禅してこのことを考えてやろう」というのはいけない。

「今日は、一時間の坐禅があっという間だった。充実した坐禅だった」と言う人がいる。時間を短く感じれば、よい坐禅というのではない。われわれの日常生活は、一日などほんの一瞬、一年もあっという間に経ってしまう。あっという間にすぎてしまう時間が充実して過ごせた時間かというとそうでもない。時間の長短に対する感覚を良い坐禅の基準とするのは世間的な思考である。坐禅は正身端坐（正しい姿勢）をその基準とする。

坐相（坐っている姿）の美しさを競い合うものがいる。坐禅には正身端坐が求められると言っても、坐相は各人の体型にもよるのであり、ひとそれぞれの正身端坐がある。『普勧坐禅儀』の威儀作法にしたがえば、それが正身端坐である。

坐禅に肩書きはいらない

あなたには、自分自身の落ち着きどころがあるだろうか。確かな自分があるだろうか。肩書きによらない輝きがあるだろうか。

偏差値教育の受験戦争に勝ち残って、一流大学に入り、希望の一流企業に就職し、順調に昇進し、指導的立場で活躍し……そして退職。地位や肩書きを失い、ひとりのただの人となったその時、「いったい自分の人生は何だったのだろうか」と寂しく空しい気持ちになる人がいるという。坐禅は、そんな肩書きや地位の空しさを教えてくれる。

坐禅をするとき、そこには地位も名誉も肩書きもない。何も必要ない。いや、何も役に立たない。どれだけ金があろうが、どれだけ学問があろうが、関係ない。ただ、坐禅をしている自分があるだけである。

私は大学において坐禅を教えているが、立場上、指導する私と、教えをうける学生がいる。しかし、坐禅を行ずることにおいては全く同等であり、正身端坐しているかどうかという以外に、何の優劣もありえない。立場や地位や名誉や財産等は俗世間でのこと、坐禅はただ坐禅である。そこに確実な自己の坐りがある。

坐禅の効用

さて、思惑をもって坐禅をしたり、効用を期待しての坐禅は、正しい坐禅ではないと述べたが、坐禅にはすばらしい効用があることは確かである。

私はこれまで、坐禅のすばらしい効用を実感しながら、それが何故なのかを知り得なかった。いや、知る必要もないと思っていた。しかし、最近ある本に出会って坐禅の功徳に、医学的・科学的な根拠があることを確信した。

その本とは、春山茂雄氏の『脳内革命』である。田園都市厚生病院の院長である春山氏は、病気の治療や予防に瞑想を取り入れている。瞑想が健康に、病気の治癒に、大きな力を発揮することが、医学的にわかってきたからである。瞑想時に分泌される春山氏の言う脳内モルヒネ（β–エンドルフィン）が、人間を肉体的にも精神的にも限りなく向上させることがわかってきたのである。

この脳内モルヒネは、肉体を若返らせ、ガンをも治癒する力を持ち、人間関係を平和に保ち、やる気や忍耐力や創造力等を発揮させるという。

そして、私にとってさらに感心させられるのは、この物質が思惑をもって人為的に操作されうるべきものではないと春山氏が述べていることである。「ただ坐る」、そこにこそ功徳があるということである。

さあ、坐禅をはじめよう

坐禅をするには、その環境をしっかりと整える必要がある。静かなところがいい。あまり暑かったり寒かったりしてもいけない。ゆったりした服装がいい。からだもきれいさっぱりとしていることが望ましい。

自宅で坐禅をするときは、座布団を二つに折って尻の下に敷き、足を組む。初心者は半跏趺坐がいいだろう。まず右の足を左の腿の下に置き左の足を右の腿の上に載せる。手を膝の上に手のひらを上にして置き、ふーっと大きく二三度息を吐いて息を調える。体を左右に揺すり正中で止めるようにして身体を整える。次に手を組む。両手の指の部分を重ね（右が下）、両手の親指の先をつける。背骨を伸ばして顎を引く。そうすると視線は自然と一メートルほど前方に落ちる。口の中に空間を作らないようにし、上下の唇と歯をしっかりとつける。呼吸は鼻からする。深い呼吸をしようとする必要はない。自然に任せる。

さあ、姿勢がととのったら、どかーっと坐ってください。
続きを隠す<<

「只管打坐〔しかんたざ〕」こそ正伝の仏法

道元禅師は、一二二七年に宋より帰朝し、直ちに『普勧坐禅儀〔ふかんざぜんぎ〕』を著し、一二三一年には『弁道話〔べんどうわ〕』を撰述している。前者は正伝の坐禅を普く勧めるために、正伝の坐禅の意義とその具体的実践方法を示したものであり、後者は、立教開宗の宣言書とも言われ、坐禅に関する十八の設問自答の問答を通して、正伝の仏法における坐禅を開顕し、坐禅が仏法の正門であることを明確にしようとしものである。

『弁道話』では、

大師釈尊は、正しく得道の妙術を正伝し、また三世の如来は、ともに坐禅より得道された。だから、坐禅が仏道に入る正しい門であることを伝えたのである。そればかりではない、印度や中国の諸祖も皆な坐禅より得道しているのである。

また、

善知識〔ぜんちしき〕（すぐれた師）に出会ったそのはじめから、決して焼香だとか礼拜だとか念仏だとか修懺だとか看経をすることなく、ただ打坐（坐禅）して身心脱落〔しんじんだつらく〕する（身も心も迷いから解放される）ことを得なさい。

と説かれている。

『普勧坐禅儀』には、

あの、生まれながらに全てを悟っておられた釈尊が、更に六年もの間、端坐（坐禅）をして修行をなされた足跡を見るがよい。また、達磨大師がお悟りの心を伝えるために、九年の間面壁〔めんぺき〕（坐禅）をされた名声が、今もなお聞こえているではないか。古の聖人たちがこのように坐禅を行じられている。どうして今の我々が弁道修行しないでよいものか。であるから、言語・文字を尋ね逐う経典の知的理解をしばらく止めて、他に求めることを止めて、自らの内なる智慧の光で自らを照らし明めて根本に戻ること（坐禅）を学ぶ（行ずる）べきである。そうすれば身心ともに自然とぬけ落ちて、本来のあり方が現れ出よう。このこと（身心脱落）を得ようと思うなら、今すぐにこのことを（坐禅）を務めるべきである。

と示されて「坐禅」を勧められている。

『正法眼蔵随聞記〔しょうぼうげんぞうずいもんき〕』にも坐禅を第一の修行とする記述が多々見られる。

禅僧がよくなるための第一の用心は、只管打坐することである。利鈍賢愚を問題とせず、坐禅すれば自然によくなるのである。
その人の素質に随って修行すべきであるとはいえ、いま仏仏祖祖が相い伝えられて専らすべきことは坐禅である。この行には種々のはたらきを兼ねていて誰でも行うことのできる方法である。
学道の最要は坐禅が第一である。大宋の人が多く得道することも皆な坐禅の力である。……であるから学人よ、只管打坐して他のことに関わってはいけない。仏祖の道は只坐禅である。他の事に順ってはいけない。

何故このようにまで道元禅師は「坐禅」を勧められるのか。それは釈尊はじめ祖師の行われた仏行〔ぶつぎょう〕（単に覚りを得るために行われた修行ではなく、覚りを得た後も行われたところの仏〈覚者〉の行）であるからであり、自らもこの「坐禅」によって身心脱落し、「坐禅」こそが仏行であることを確信されたからである。

ところで、最近、健康法として、人格向上の術として「瞑想」が注目されている。仏教において二千数百年にわたって行じ続けられてきた「坐禅」の一面が、今になってようやく一般において気付かれるに至った感がする。まことに有意義なことである。しかし、正伝の仏法における「坐禅」は、世間で言う「瞑想」とは違う。「瞑想」は坐禅の一面であり、「坐禅」はその効能を含むあらゆるはたらきにおいて「瞑想」を超えるものである。その大きな違いの一つは、わかりやすく言えば“打算”を捨てられるかどうかにある。

すなわち、道元禅師は『正法眼蔵随聞記』で、次のように言われる。

仏道に入ったら、ただ仏法の為に諸事を行うのであり、代償として何か所得があるだろうと思ってはいけない。
ただ、よいことを行って、人の為に心地よいことをしてあげて、代償については自分の名声を留めようと思わず、ほんとうに無所得であって、生きとし生けるものにとって利益のあるような事をするのが、そのまま吾我を離れる第一の用心である。
無所得、無所悟で、端座して時を過ごせば、それが仏祖の道である。

坐禅をすることによって精神を訓練して度胸をつけようと思ったり、はたまた健康になろうと思ったり、何か特別な問題を取り上げて思索しようと思ったり、それによって何かよい智慧を得ようと思ったり、精神統一をはかろうと思ったり、瞑想してなにか特殊な心境になろうと思ったり……、このような「思惑」をもって坐禅や瞑想をすれば、それは所詮「煩悩」が坐禅をしているのであり、「欲望」が瞑想をしていることになる。

坐禅に限らず、道元禅師は、何事にも所得を求めてはならないと言われる。おそらくは所得を求める心が強ければ強いほど、かえってそれは得られないからであり、得られたとしても、所得を求め続ける心があれば、決して満足は得られないからである。世間的な満足を得るのを目的とするのが仏教ではないのである。

釈尊伝の中に、次のような話がある。釈尊が成道される前の「悪魔の来襲」の話である。

ネーランジャラー（尼連禅河）の河畔の菩提樹の下で、理想（成道）を達成するまではけっしてここを立たないと、死を覚悟して坐禅を続ける釈尊に、悪魔が語りかける。

「あなたはやせて顔色が悪く、死に瀕している。あなたの生きる望みは千に一つしかない。あなたは、生きるべきである。命あってこそ善も行うことが出きる。命長らえて、梵行を積み、聖火に供物を捧げれば、多くの福徳が積まれるのに、いたずらに努めてもむだである。精励への道は、苦しくて行いがたく、到達しがたい。」

このように語りかける悪魔に、釈尊はこう言われる。

「無法者の親類よ、波旬よ、お前がここに来て私に勧めている世間的な福徳は、私に用はない。福徳を求めている人たちに、お前はこれを説くべきである。私には信仰と精進と智慧がある。このように努めている私に、お前はなんで生きることを求めるのか。」

と。そして釈尊は坐禅を続けられついに成道される。世間的な福徳とは具体的には生天を意味するが、これは利己的な欲求と受け取れる。釈尊はこれを退けられている。

道元禅師の「無所得、無所求、無所悟」の教えは、釈尊のこの姿勢に淵源を見出だせる。道元禅師はこの「無所得、無所悟」の行を「不染汚〔ふぜんな〕の修証〔しゅしょう〕」と表現し、「坐禅」はまさに「不染汚の修証」であるとされたのである。

真理は「言葉」によって表現できる

このように「坐禅」を第一の行とし、その実践を勧められる道元禅師であるが、他の如何なる仏者も及ばぬ程、大いに「言葉」を遺されている。そして、その言葉はきわめて難解であり、深遠である。

昭和初期、突如として日本の思想界、教界はもちろん哲学・科学といった分野の学者が道元禅師に注目し始めた。たとえば、西田哲学を嗣ぐ哲学界の権威である田辺元は『正法眼蔵』を取り上げて、「哲学の最高峰」と言い「哲学の真髄」と言い「日本哲学の光・指標」と賛嘆し、また、自然科学者であり生理学の泰斗である橋田邦彦は、自然科学の立場から「生理学の究極の生命」と言い、さらに、キリスト教の金子白夢も「人間心霊上に於ける生命の聖典」と道元禅師の『正法眼蔵』を賞賛したのである。

先に述べたように、「坐禅」という行を第一とされた道元禅師ではあるが、「言葉」を実に大切にされ、仏法を「言葉」で語ることに大いに力を注がれたのである。それは何故か。

もちろん、当然のことながら、正伝の仏法を、弟子たちに、そして後代の我々に伝えたかったからである。そしてまた「道得〔どうとく〕」を重んじられたからである。

「道得」とは、読み下せば「道〔い〕い得〔う〕る」ということであって、端的に言えば「真理は表現できる」ということである。

常識的には、言葉には限界があるとされる。リンゴの味は、そのリンゴを実際に食べた者のみが知りうる。言葉でもって言い表すことはできない。同様に、悟りの境涯は、悟った者のみが知りうるものであるというのが一般的理解であって、禅ではこれを「冷暖自知〔れいだんじち〕」という。

しかし、道元禅師は言われる、

むかしから、いまだ一言をも言わない人を、その人（悟った人）ということはない。

と。また、

仏性について、「有る」と言っても「無い」といっても共に、仏法を謗〔そし〕ることになる。しかし、謗ることになろうとも、言うべきである。

と。

「自分では解っているんだけれど、うまく言えない」などと我々は言うが、きちんと言えなければ解っていることにはならないのであると道元禅師は言われる。

「言葉」でもって言うことが不可能なことを、あえて「言葉」を用いて言う。このことは道元禅師だからこそ為し得たことなのかも知れない。そしてそこに、道元禅師の言葉の難解さの所以があり、魅力があるのであろう。

おわりに

このように、釈尊の“仏道”の基本を「坐禅」としておさえて自ら行じ、弟子に行じさせ、人々にも勧め、そして釈尊の“仏法”を後世の我々に正しく伝えるべく、それを「言葉」によって表現されて遺された、これがまさに道元禅師の仏教であろうと思われる。


続きを隠す<<

御霊〔みたま〕は目に見えなくとも

ご先祖は目に見えません。いいえ、実際にご先祖の御霊位が存在するのではなく、私たちの心の中におられるのでしょう。そのご先祖に対してお花を供え、美味を供え、語りかけるのです。お寺の掲示板にはまた次の句を掲げることもあります。

見えなくても　お花を供えたい
食べなくても　美味を供えたい
聞こえなくても　語りかけたい
見えないものへ　 まごころの贈りもの

まごころの贈り物

人間の行為で最も貴いのは、目に見えないものに対する奉仕であると私は思います。それは見返りを求めない、純粋な行為です。禅ではそれを「不染汚の行」（清らかな行為）と言います。

どんなに美しいお花を供えても、御霊位に見てもらえるわけではないとは思いつつ、お位牌や遺影をきれいなお花で飾ってあげたいと思います。「おばあちゃんはお花が好きだったから」ときれいなお花を供え、「おばあちゃん、きれいでしょ」と語りかける。

「あの子が好きだったから」とお菓子やおもちゃを供えます。何の反応もありませんが、そんなことは承知で、私たちは目に見えないものに接します。

御霊を思うまごころ

でもそれは無意味なことではありません。実際に供えるのは物ですが、同時に私たちはまごころを供えているのだと思います。そのまごころこそが御霊に届くのだと思うのです。私はそのような世界を信じています。

この世でもそうではないでしょうか。真に私の心を動かすのは、相手のまごころです。逆に、私のまごころこそが確かに相手の心に届くはずです。

ご先祖は何人いるの？

ご先祖は、十代遡ると一〇二四人（十代を合計すれば二〇四六人）、一代を三十年として道元禅師や瑩山禅師のおられた頃まで二十五代遡ると三三五五四四三二人（二十五代を合計すると六七一〇八八六二人）おられる計算になります。それらのご先祖がおられたからこそ、今の私がいると思うと自然と感謝の気持ちが湧いてきます。

お盆はまさに日本人の「まごころの祭典」であり、「いのちの祭典」です。毎年、お盆が過ぎると寂しく感じます。お盆が過ぎて寂しく思うのは、真心が、目に見えない物との別れを感じるからなのかも知れません。


続きを隠す<<

生きるときは生きる、死ぬときは死ぬ

さて、私は冒頭に「人は、この世に生まれ、今生を生き、そしてやがて死んでいく」と述べたが、しかしながら道元禅師は、このように心得るのは誤りであると言われる。

道元禅師いわく、

生より死にうつるとこころうるは、これあやまりなり。

（『正法眼蔵』「生死」）

〈生あるものがやがて死に至ると思うのは間違いである。〉

と。生から死へと「移る」のではないという。それでは、いったいどうなのかというに、

生はひとときのくらゐにて、すでにさきあり、のちあり。かるがゆへに、仏法のなかには、生すなはち不生といふ。滅もひとときのくらゐにて、またさきあり、のちあり。これによりて、滅すなはち不滅といふ。生といふときには、生よりほかにものなく、滅といふときは滅のほかにものなし。かるがゆへに、生きたらばただこれ生、滅きたらばこれ滅にむかひてつかふべし。いとふことなかれ、ねがふことなかれ。

（『正法眼蔵』「生死」）

〈生は一時の位（あり方）であって、すでに先があり、後がある。であるから、仏法の世界では、生を「不生」という。滅（死）も一時の位であって、また先があり、後がある。であるから、滅を「不滅」という。生というときには、生よりほかに何もなく、滅というときは滅のほかに何もない。であるから、生が来たならばただこれ生、滅が来たならばこれ滅に向かい合って仕えなさい（従いなさい）。（死を）嫌ってはいけない。（生を）願ってはいけない。〉

と、「生のときは生、死のときは死」であるという。とにかく一瞬一瞬に向かい合っていくあり方、その時その時を真剣に生きていくあり方、そのことを重視している。生とは何か、死とは何かと「考える」のではない。

考えてはいけない。考えると、嫌ったり願ったりする。だから、ただ、「生」を生き、「死」を死ぬ、それでいいのである。死を嫌ってはいけない。いつまでも生きていたいと願ってはいけないのである。

死を嫌ってはいけない

確かにそうではないか。もし人間が死ぬことがなければ、どうなるであろう。人口は限りなく増加し、いずれ絶滅するであろう。それは、基本的にいかなる生命体でも同様である。大自然の摂理は、様々な生物種が一定の数を維持して共生し、共存して、種を持続的に保存させている。増え過ぎればやがて食糧が不足して絶滅の危機を迎えることは、これまでの生命の歴史が明らかにしている。

死ぬということは必要なことなのである。遺伝子は自らを永遠に存続させるために、自らが宿る生命体に「老化」「死」というプログラムを書き込んでいるという。私が死ぬからこそ永遠の命の存続があり得るのである。

私たちは、子々孫々と受け継がれていく永遠の命を守るために、死ななくてはならないのである。そう思えば、死も悲観的なものではない。私は死をありのままに受け入れたいと思うし、生きているうちはその命を大切にして、よりよく生きたいと思うだけである。

死を嫌ってはいけない。永遠の生を願ってはいけない。道元禅師がいう「厭うことなかれ、願うことなかれ」は、そのうようにも解釈できると私は思う。

生きるということ

道元禅師はまた、「生」（生きる）ということについて次のようにも言われている。

生といふは、たとへば人のふねにのれるときのごとし。このふねは、われ帆をつかひ、われかぢをとれり、われさほをさすといへども、ふねわれをのせて、ふねのほかにわれなし。われふねにのりてこのふねをも、ふねならしむ。この正當恁麼時を功夫参学すべし。この正當恁麼時は、舟の世界にあらざることなし。天も水も岸も、みな舟の時節となれり。さらに舟にあらざる時節とおなじからず。このゆゑに、生はわが生ぜしむるなり。われをば生のわれならしむるなり。舟にのれるには、身心依正、ともに舟の機関なり。尽大地、尽虚空、ともに舟の機関なり。生なるわれ、われなる生、それかくのごとし。

（『正法眼蔵』「全機」）

〈生というのは、たとえば人が船に乗っている時のようなもの。この船は、私が帆を使い、私が舵〔かじ〕を取っており、私が棹〔さお〕をさしているとはいえ、船が私を乗せて、船のほかに私はない。（しかし）私が船に乗って、私がこの船を船ならしめている。まさにこの時のことをよく考えてみなさい。まさにこの時は、この船が全世界。そして、大空も大海の水も彼方に見える岸も、船の時となっている。けっして、船ではない時と同じではない。であるから、生というのは私が生じさせたのである。私を、生が私にさせているのである。船に乗っているからには、身心依正（私の身も心も、私を取り巻く環境も）、みな船の働きの中にある。全大地・全空間が、共に船の働きの中にある。生である私、私である生、それはこのようなものである。〉

さて、これをどう受けとったらいいのだろう。実に難しい。思うに、身心依正（私の身と心と、私が存在する世界）が、一如不二、分け隔てることのできない一つのものであり、それが「生」のあり方であるということか。

一日一日、一呼吸一呼吸、一瞬一瞬の中に、生があり、死がある。夜、床について、次の朝必ず目覚めるという保証はない。この一呼吸が、最後の一呼吸になるかも知れない。道元禅師は、一弾指（一度指を鳴らす）の間に、六十五の刹那（瞬間）があって、生滅を繰り返していると説く。一瞬一瞬に、私たちは生まれ、死んでいるのであると。

だからこそ、日常生活の一挙手一投足に、一期一会、一所懸命に立ち向かわなければならない。「吾常於此切」（吾れ常に此において切なり）である。今、ここ、このこと、に最善を尽くす。

この現代語訳しても難しい道元禅師の言葉に親しく参じてほしい。そして、自らじっくりと味わっていただきたい。

ところで、良寛禅師は、こう味わった。

災難に逢時節には災難に逢ふがよく候。
死ぬ時節には死ぬがよく候。
是はこれ災難をのがるる妙法にて候。

永遠の命、永遠の修行

人はよく「たった一度の人生」という。しかし、道元禅師はそうは言われない。この今の人生は、たった一度であり、かけがえのない人生であるが、しかし人生はたった一度ではないのである。

道元禅師は言われる、

すでに帰依したてまつるがごときは、生生世世、在在処処に増長し、かならず積功累徳し、阿耨多羅三藐三菩提を成就するなり。

（『正法眼蔵』「帰依仏法僧宝」）

〈すでに仏の道に帰依したならば、生生世世にわたって在在処処において必ず功徳を積み累ねていき、阿耨多羅三藐三菩提を成就するのである。〉

私たちは生まれ変わり死に変わりしながら、このような生涯を繰り返してゆく。何百、何千、何万、何億回と。そして、その生涯その生涯において功徳を積み重ね、人格を磨き、向上させて、そして遥か未来において、阿耨多羅三藐三菩提（＝無上正等正覚、釈尊のお覚りと同等な、この上ないすばらしいお覚り）を成就するのである、というのである。私たち人間は、そのような存在であるという。

このような人生が、またあると信じて、今の人生を、次の人生につなげて行こうではないか。だから、死ぬまで一生懸命に生きる。死ぬまで修行である。死ぬ瞬間まで功徳を積み重ねていく。自分を磨き向上させていく。どのような境遇にあっても、苦しくても辛くても、他人の世話になり迷惑をかけていても、感謝の気持ちを忘れずに、そのような中で精一杯、よりよく生きていく。それは容易いことではない。しかし私は、それが道元禅師の教えであると信じている。
続きを隠す<<

あらゆるものに命があり心があり、そしてそれらはつながっています。この世界のあらゆる存在は、関連しあってひとつながりなのです。

私たちのからだは数え切れないほどの原子から成り立っていると言われます。それらが集まった細胞が、常に入れ替わりながら、私たちの身体を形作っているのです。五年も経てば、今私のからだをつくっている原子はすべて入れ替わってしまうとも言われます。私たちは、原子のレベルでみると、あらゆる動物や植物や鉱物と原子を互いに交換しながら生きているのだとも考えられます。

はるか昔にお釈迦様や道元禅師のからだの中にあった原子が、いま私のからだの一部分になっているかも知れません。過去に存在した私のすべての御先祖さまの原子が、私の遺伝子をつくり、私の中で生きているとも言えましょう。

私たちは今、その「ひとつながり」ということを忘れかけていないでしょうか。だから、自分と他人を分け隔てて差別して苦しめ、対立して無益な戦争をおこし、環境を破壊して自らの首を絞めるような行為を行ってしまうのでしょう。

私たちは、かつてこの地球上に存在したすべてのものと無関係ではなく、現在存在しているあらゆるものとひとつであり、今の私たちの生き方、考え方が未来に大きな影響を与えていくのであろうと思われます。

「いのち」とは、広い意味で、そのようなものではないでしょうか。


続きを隠す<<

ところで、「無常を観じる」ということは、そのような時間の経過の速さをしみじみ思うことをばかりを言うのではない。もっと、危機的な思いも言う。

最近、私くらいの年令で、突然死ぬ人が増えている。近年、同年代の何人かの友人・知人が亡くなっている。脳血栓やら脳溢血、心不全等。

交通事故等に遭遇する場合もある。

「無常」ということは、〝世の中が常に移り変わって一定不変ではないこと〟を言うが、それは観念ではなく、危機感を抱くべき現実である。

道元禅師は、『正法眼蔵随聞記』の中で、

「無常ということは、頭で考えて理解するような観念ではなく、本当に目の前の事実である。明日、いや今この瞬間、どんな病気にかかって、東西もわからず、激しく苦しむこともあるかもしれない。また何かの災難にあって頓死をするかも知れない。あるいは賊難に遭遇して殺害されることもあるかも知れない。本当に何が起こるかわからない。それが無常ということである」

と言われている。

夜、眠りに入る時、明朝、確実に目覚める保証はない。いや、この呼吸が、最後の呼吸になることだってあるだろうし、この心臓の鼓動が最後の一鼓動かも知れないのである。

朝、家を出て、そして確実に夜、帰宅できるとは限らない。朝、送り出した家族と今生の別れとなるかもしれない。そういうことだってあるのである。

そんなことを考えて日常生活を送っている人は、おそらくいないだろう。しかし、そのように思って、時々刻々を心して生きること、それが真に無常を自覚している人の生き方であると道元禅師はいう。

そして、そのような自覚を持つ人にとって、人生は真に充実した悔いのないものとなると、仏教では教えているのである。

続きを隠す<<

かつてインドには、人生の問題を解決するために、社会的役割を終えた老人が、家を出て道を求めるという風習があった。主にバラモン階級の人々における風習である。

七、八歳のころから二十歳ころまでの学問の時代である「学生期〔がくしょうき〕」、その後結婚して家督を継ぎ、家業に従事する五十歳くらいまでの「家長期〔かちょうき〕」、長子が結婚して家督を譲り、家を出て森林に隠棲する「林棲期〔りんせいき〕」、林中での修行が完成し、人生問題が解決され、再び村落や都市に還って托鉢遊行する「遊行期〔ゆぎょうき〕」があったという。

現代にも「林棲期」や「遊行期」のような生き方を求める壮・老年者がいる。停年退職をする世代の人が、いわゆる自分探しの第二の人生を歩みたいと、心密かに思っているのである。四国のお遍路などは、それらの人々の自分探しの修行の旅でもあるのだろう。

ところで、「在家仏教」とは、一般在家にありながら仏教的な生き方をし、人生をよりよいものとする仏教のあり方、特に第二の人生を、仏教の教えを学び行じながら、人生の完成を目指す、そのような生き方であろうと私は思う。

近年、停年退職を間近にして、第二の人生を出家者として生きることを希望する壮・老年層の人々が出てきている。彼らは、現実社会のしがらみに疲れ、年老いて改めて、生きることの意義、真の幸せとは何か等、人生の本質的な疑問を抱き、小さな庵にでも入って、経を読んだり、写経をしたり、念仏をしたり、坐禅をしたりして、「修行」という自分探しの第二の人生を歩みたいと志す。

中には、真剣に仏教を勉強すべく、昼間は職場に勤務しながら、夜間の仏教系の大学に入学して若い学生たちと共に学び、退職後は修行道場に入って修行し、いずれは住職となって小さな庵で暮らしたい、と精進している者もいる。しかし、年配者にとって僧侶養成のための厳しい修行道場に入って若者と同様に修行するのは難しいのが現実である。

だからこそ、在家仏教者の修行道場、今それが求められているような気がする。年齢や体力や体質や性別等、それぞれに適した仏教的修行をしながら、自己を見つめ、人生の意義を考えて、充実した第二の人生を送る、そのような場所、仏教の教えに基づいた共同体、修行道場が、これからの社会には必要なのではないか。

少子化や独身化の傾向の中で、病人や身体の不自由な方の介護をどうするかは一般社会でも頭の痛いところであるが、もし在家仏教者の修行道場において修行者間でこれを行えれば理想的である。つまり、介護が必要な者を介護が可能な者が介護するのである。

もしやこの修行道場が養護福祉施設になってしまうかもしれないが、単なる養護福祉施設ではなく、そこが仏教や禅を学び、それを実践する修行道場でもあれば、それは意義あることである。身寄りがなく、あるいは身寄りがあっても介護してくれる者がなく、仕方なく施設に入るより、前向きに自己向上のための修行道場に入ることができれば、どんなにすばらしいことだろう。


続きを隠す<<

何を信じるのか？

答え：仏法（仏祖の教え）を信じる。

道元禅師は、「仏道を習う」ことは「自己を忘れる」ことでなければならない、と言われる。であれば、それを信じることが大切である。仏祖の教えを信じて、そのように行なうのである。「自己を忘れろ」「自己を追究してはならない」という言葉は、徹底的に自己を追究した人の言葉であり、徹底的に自己を追究した結果、「自己をわすれること」の重要性を悟った人の言葉である。それを信じて、自己を追いもとめることを止め、むしろ自己を忘れる方向に最初から向かうべきであろう。これは容易なことではないし、ここに「信」がどうしても必要となってくる。私たちにとってみれば、自分を追究してゆくことのほうが、かえって易しい。信じて自己を捨てることの方がはるかに難しい。

「自己を捨てる」とは、主体性を失うということではない。何でも「他」に従うというような、たとえば「戦時にあっては戦争に随順する」というようなことではない。「仏法に従う」のである。仏法に従うということは、他人を傷つけ殺害する方向に決して向かうものではない。

「仏法に従う」と言えば、ある人は「仏法は至上のことなのか、仏法は必ず正しいのか」と言われるかもしれないが、それが、個々の信仰なのであり、「仏法」を信じるのが仏教徒なのである。

まず信じなければ仏道に入れないのか？

答え：信仰心がなくても、学んだり実践したりすることが大切。

道元禅師は『正法眼蔵随聞記』の中で、

仏道を学ぶ人は、最初は道心（道を求める心）が有っても無くても、経論や聖教などをしっかりと見るべきであるし、学ぶべきである。

と示されている。信じる心や道を求める心があってもなくても、学んだり実践したりすることが大切であるという。そこに正しい信が生じるからである。このように示されるのは、道元禅師自身、そのことを痛感されたからである。

道元禅師は、比叡山での修行時代、立派な僧侶になって国家に知られ天下に名声が上がるようになりたいと思い、時の指導者もそのように教えていた。しかし、インドや中国の高僧の伝記や教えを記した『高僧伝』等を見ると違っていた。自分の名誉や利益を求めることは、僧侶がもっとも嫌うべきことであったのである。その後、道元禅師は、思いを改めたというのである。

このことから知られるのは、教えを信じると言っても、正しい教えを信じることが大切であるということである。有名になって権力者の帰依を受けて人々から尊敬されるようになるのが僧侶の目指すものなのか、あるいは名誉を求めず権力者に近づかず無所得の心で善いことを行うのが僧侶の生き方なのか……、道元禅師は後者であるという。目指す方向か誤っていたら、努力すればするほど道から遠ざかってゆく。まずは、信仰心があってもなくても、よく学び、正しい教えを知ることが重要である。

信を得るにはどうすればよいのか？

答え：感応道交して得る。

「感応道交」という言葉がある。感じ応じて道が交わる、縁によってあらゆる出来事が生じるということである。信を得るのも縁がなければ得られない。たとえば、恋人を捜し求めても、捜し求めて得られるというものでもない。縁があって出逢いがあって二人の心が感応すれば、そこに自然と恋心が生まれる。信を得るのも同様である。

観光気分でお寺巡りをしているうちに、信心が起こることもある。身内の不幸をきっかけに宗教に目覚めることもある。深い悲しみや苦しみのなかで、生きることの意味を考えるようになり、宗教書をふと手にすることもある。信心の発露は人それぞれである。信は「感応道交」によって得られるものである。

もし「感応道交」ということがあったら、その初心を大切にしてほしい。そしてまずは前に述べたように、仏教なら仏教の教えを学び知ることが大切である。学び知れば、実践の大切さがわかる。やはり実際にやってみないとわからない。いざ最初にその道に入る時は、どの道、覚悟が必要である。まず飛び込む勇気がなかったら、何も得られない。

曹洞宗の教えでは、実践は坐禅である。道元禅師は、「身体を調えると心もそれに従って自然と調いよくなるものである」と示している。はじめは坐禅のすばらしさがわからなくても、続けているうちにそれを実感するようになるのである。とにかく、坐禅をしてみる、続けてみる。それが大切である。そのうちに真の「信」が起こるのである。

また、正しい師につくことが必要である。誤った師に従えば、道を誤ってしまう。正しい師にめぐり逢えれば、自ずと信を得ることができるはずである。いったい「正しい師」とはどのような人なのか、どうしたらめぐり逢えるのか、それはまた難しい問題である。しかし、真に求める心が有れば、必ず出逢えるものであると思う。

信のある生活とは？

答え：エゴを離れて、自分を仏の道に任せる生活。

道元禅師は、自己を忘れたとき、万法（あらゆる存在に）に証〔さと〕らされると言われる。自分が証るのではない。自己を忘れ、エゴを離れたとき、自ずと証りがやってくるのである。

そのためには、仏祖（仏法を引き継いできた指導者）たちが行ってきたことを習い行うのが必要であり、それが信仰の生活である。道元禅師は言われる、

仏道を学ぶ人は、吾我のために仏法を学んではいけない。ただ、仏法のために仏法を学ぶのである。古〔いにしえ〕からの慣わしは、自分の身も心も一物ものこさず放ち捨てて、仏法という大海原に任せ、ゆだねるのである。その後は、一切の是非を思うことなく、我心をおこすことなく、行いがたいことでも仏法につかわれてしいて行い、我心に行いたいと思っても、仏法の道理からしてはならないことであれば、してはならないのである。

（『正法眼蔵随聞記』）

と。そして、この、吾我を離れることが、仏となるための近道であるという。

仏となるのに、たいへん簡単な道がある。ただ、自分の身も心も放ち忘れて、仏の家に投げ入れて、仏の方より行われて、これに従ってゆく時、心をも用いず、力をも費やさずして、生死を離れ仏となるのである。

（『正法眼蔵』「生死」）

ただ、自分の身も心も放ち忘れて、仏の家に投げ入れた時、既にその人が仏となっているとも言えるのである。

信についての祖師の名言は？

私のこれまでの考え方を、師匠の教えに従って改めていくことが大切である。たとえばこれまで「仏とは立派なすがたをしていて有難い説法をしてくださる釈迦や阿弥陀のことを言うのである」と思っていても、もし師匠が「カエルやミミズが仏だ」と言えば、それが仏であると信じてこれまでの知解（知的理解）を捨てるべきである。

（『正法眼蔵随聞記』）

＊師匠の言葉を信じるべきことを極端な例をあげて示したものである。これは己見（自分の考え）に執著してはならないことを教えたものである。自分勝手な考えで修行していても、決して仏の道は成し遂げられないからである。

仏道を修行する者は、まず仏道を信じなければならない。仏道を信じるというのは、自分は本来仏道の中にあって、迷いや惑いもなく、妄想や邪見もなく、何か増えたり減ったりするものもなく、誤りもないということを信じるのである。このような信を生じ、このような道を明らかにし修行するのが学道の基本である。その修行の上で大切なことは、分別心（自他や善悪、好嫌などを分け隔てする心）を捨てさせて、知解による生き方に向かわせないことである（これは初心者を誘引する方便である）。その後、身体も心も抜け落ちて、迷いもそして悟りさえもうち捨ててしまうのである（これが第二の様子である）。だいたい、自分が本来仏道の中にいることを信ずる人は希有である。もし、正しく道の中にいると信じれば、大いなる道が通じているか塞〔ふさ〕がっているか、迷いや悟りは何に由来するのかを、自ずと明らかに知るであろう。試みに分別心を捨ててみなさい、十人中、八九人はたちまちに道をはっきりと見つけるだろう。

（『学道用心集』）

＊これまでの自分の考えを一旦捨てて、仏道を信じて修行することの大切さを示したものである。自分の考えはとかく先入観にとらわれていることが多いので、それを捨てないで善し悪しを判断しているうちは、なかなか迷いから抜け出すことは難しいのである。

続きを隠す<<

禅の発展

禅は「不立文字〔ふりゅうもんじ〕、教外別伝〔きょうげべつでん〕、直指人心〔じきしにんしん〕、見性成仏〔けんしょうじょうぶつ〕」を主張し、釈尊の仏法は文字（経論）の上にあるのではなく、この文字の外に別に伝えられており、それは直接、人間の本性を見究め、自己を明らかにするところにあり、そこに釈尊の仏法の本来の目的がある、としました。例えれば、文字（経論）は月をさす指にすぎず、その指が指し示すところの月を見極めることこそが大切であるとするものであり、自己の究明や修行の実践を重視したのです。

このような禅の教えが唐の時代に中国各地に広まり、五家七宗（臨済〔りんざい〕宗・曹洞〔そうとう〕宗・雲門〔うんもん〕宗・潙仰宗〔いぎょう〕宗・法眼〔ほうげん〕宗・臨済宗楊岐〔ようぎ〕派・臨済宗黄龍〔おうりゅう〕派）に分かれて発展し、宋の時代には、臨済宗と曹洞宗が最も盛んとなりました。

臨済宗と曹洞宗

曹洞宗と臨済宗の相違は、臨済宗の大慧宗杲〔だいえそうこう〕（一〇八九～一一六三）の禅と、曹洞宗の宏智正覚〔わんししょうがく〕（一〇九一～一一五七）の禅との相違によって、よく説明されます。前者を「看話〔かんな〕禅」と言い、後者を「黙照〔もくしょう〕禅」と言います。

臨済宗の大慧宗杲は、禅の修行に公案の工夫を取り入れ、これによって、修行僧の境涯を深めてゆく方法をとりました。公案とは、それ以前の禅師たちのすぐれた行いや言葉を題材にしたものであり、その真意を考えさせることによって、悟りを得させようとしたものであります。これを看話禅と言います。

一方、曹洞宗の宏智正覚は、公案を工夫して悟りを開くのではなく、黙々として坐禅することの中に悟りがあるとしました。これを黙照禅と言います。

看話禅と黙照禅との相違は、坐禅と公案とのいずれに重点を置くかに分かれると言えますが、看話禅は悟りを得るための方法として、坐禅よりも公案の工夫を重んじ、黙照禅は公案よりも坐禅の実践を重んじて、坐禅の実践のほかに悟りはないことを強調したということができます。

大慧は口を極めて「黙照の邪禅」といって攻撃し、宏智も「看話の妄風」といって看話禅を非難しました。

この両者の違いが、臨済宗と曹洞宗の違いを決定づけるものになりました。

道元禅師は中国に渡り、この両宗の禅師に参じ、ひろく学びますが、結局、曹洞宗の流れを汲む如浄〔にょじょう〕（一一六三～一二二八）の教えを日本に伝えたのです。

如浄は、臨済宗にも曹洞宗にも与しない孤高の禅者でありましたが、その系統は明らかに曹洞宗の系統であり、黙照の坐禅、只管打坐を継承するものでありました。そして、如浄は権力に近づくことを嫌い、名利〔みょうり〕（名誉や利益）を求めず、ひたすら厳しい実践を行っていました。道元禅師は、この如浄を正師（正しい師匠）と定め、その法を嗣いだのでありますから、まさにそれが道元禅の特徴であるとも言えます。

道元禅とは何か

道元禅という「禅」が特別な禅としてあるわけではありませんが。道元禅師が伝えた禅ということで道元禅と用いることにします。

道元禅が、先にも述べたように、宏智正覚の黙照禅の流れを汲むものであることは明らかであり、その特徴を敢えて言えば祗管打坐〔しかんたざ〕・本証妙修〔ほんしょうみょうしゅ〕ということになります。

「只管打坐」の「只管」とは、〝ひたすら〟〝いちずに〟ということ、「打坐」の打とは接頭語で動作・行為をする意であり、坐とは坐禅のこと、よって打坐とは坐禅をすることですから、つまり、「只管打坐」とは、ひたすら坐禅をすること、ということになります。道元禅師の中心的な教え、実践です。

鎌倉仏教の祖師たちは、あらゆる人々を救う立場から、それぞれ、誰にでも行うことが出来る実践を説きました。親鸞上人は「お念仏」を、日蓮聖人は「お題目」を、そして道元禅師は「坐禅」を人々に勧めました。「お念仏」や「お題目」にくらべ、「坐禅」は特別な人にしかできない厳しい修行法のように思われがちですが、道元禅師にとって坐禅は、「この行、能く衆機を兼ね、上中下根ひとしく修し得べき法なり」（『正法眼蔵随聞記』）と示されるように、生まれつきの能力の区別なく、みなが修行することのできる修行法であったことがわかります。

ところで、この「只管打坐」は道元禅師独自の教えではありません。道元禅師の師である如浄が、「いろいろな修行があるが、ただ坐禅すればよい」と教えられており、道元禅師はこの教えを継承したのです。理屈ではなく、「ただ坐禅すればよい」、それが道元禅師が確信した仏の道です。

そして、「本証妙修」。修行（坐禅）の中に証（さとり）があるということです。坐禅が、そして修行が、さとりを実証しているということです。ですから、只管打坐を基本とする種々の修行において、悟りを目的とせず、この自己の修行がそのまま仏としての行であるとの自覚をもって行なうことが大切であるとしました。当然、一つひとつの行いに、威儀作法が重んじられ、行持は綿密であり、厳粛に行なわれなくてはなりません。

道元禅の生き方

私たちは、生まれながらに素晴らしい能力を持っています。眼・耳・鼻・舌・身・意という感覚器官をもち、色・声・香・味・触・法という環境世界を認識し、それを心によって感じ、判断し、様々な素晴らしい働きをすることができます。私たちのような運動能力をもち、意識作用をもつロボットを造ろうと思ってもできるものではありません。

その素晴らしい働きを、正しいことに働かせること、それが仏教であり、道元禅の生き方であると言えます。私たちの味覚は、毒を吐き出して身を守ることもすれば、美食に溺れて身体を蝕むこともします。私たちのこの手は、倒れている人を助け起こすこともできれば、殴って危害を加えることもしてしまいます。

この身と心をどのように用いていくか、それが道元禅においては非常に重要なことです。道元禅師は、日常生活の威儀作法（食事作法や洗面、便所での作法まで）を事細かに説き、これに従って生きることこそが仏道であると教えました。私たちのこの身心を仏の教えに従って用いて行くこと、それがそのまま仏の姿であると言われるのです。

「形ではない、心こそが大切だ」と言う人もいますが、その心が形に現れるのであり、形に現れなければ、いくら素晴らしい心をもっていると言っても、生かすことはできないでしょう。

道元禅では、坐禅することを修行の第一と教えます。坐禅は苦行ではなく「安楽の法門」であるから、一般の方にもできるだけ実践していただきたいと思います。必ずや自己の落ちつきどころとなるに違いありません。しかし、種々の事情で坐禅を修行できない方もおられるでしょう。そのような方には坐禅の精神でもって生活していただけたらと思います。日常生活において、真摯な態度で生き、ひとにも物にも謙虚な気持ちで接し、ひとつひとつの行ないを大切にし、その行ないに対して報酬を求めずに、ただひたすら精進する。もちろん何を行うかということについては、よるべとすべき戒律や、仏教の智慧が基本となりますが、その上で、いま述べたような生き方ができれば、それが道元禅の実践であると思われます。
続きを隠す<<

仏教の三つ様相

その前に、仏教の三つの様相について整理しておきます。それは、「仏法」と「仏教」と「仏道」です（一般には、これらをまとめて「仏教」と言っているのであろうと思います）。

「仏法」とは、仏教の開祖釈尊が、現実世界のあり方を深く洞察することによって明らかにされた【真理・真実】で、時代や地域によって変わることのない法則です。「諸行無常」や「縁起」などがそれに当たります。

「仏教」とは、そのような現実世界を【よりよく生きるための教え】であり、その基本的法則です。「四諦八正道説」「中道」などがそれに当たります。

「仏道」とは、時代や地域によって異なりうる仏教的生き方であり、「仏法」や「仏教」を基本として、その時代、その地域に存在した修行者が行うべき【仏教的具体的実践の道】です。法然・親鸞上人の「念仏」や道元禅師の「坐禅」がそれに当たります。

現実世界のあり方の洞察……仏法

さて、まず、「仏法」の「法」とは、梵語のダルマ（dharma）の意訳であり、いろいろな意味がありますが、「宇宙の真理」「宇宙の法則」と言ってもよいでしょう。

真理というと堅苦しいのですが、簡単に言えば、時代によって変わることのない事実、場所によって変わることのない事実ということです。「水が流れる」ということを例に取ってみれば、この地球上においては、通常（もちろん例外はありますが）水は高いところから低いところへ流れます。今から約二五〇〇年前の釈尊の時代も現在もそれは変わることはありません。インドにおいても日本においても、これは場所によって変わらない事実です。

釈尊は、そのような、時代（時間）や場所（空間）によって変わることのない、この現実世界の真理・真実を、しっかりと見つめ、きちんと教えられたのです。

例えば「諸行無常」という教えがあります。その意味は、あらゆるものごとは常住不変ではない。移り変わりゆくものであるということです。

今、我々の現前にあるすべてのものごとは、因縁和合（原因があり、それにいろいろな縁〈条件〉が和合すること）によって生起している「現象」であり、ある時、ある条件のもとに象〔かたち〕を現しているのであって、ほかのものと関わらず存在し、それ自体でいつまでも変わらずに存在し続けるものではありません。

ところで、「法」として説かれた教えの代表が「縁起」という教えです。「縁起」とは、時間的な見方をすれば、あらゆる物事には原因があり、それに種々の条件が加わって結果を生じるということであり、その結果がまた原因や条件となって、さらなる結果を生みだしてゆくというように、現実の世界はいろいろな物事が複雑に絡み合って、移り変わってゆくということです。いわゆる「因果の法則」です。

また「縁起」ということを、空間的に論じますと、世界はつながりあって存在しているということになります。いわゆる「共生の法則」です。動物と植物、花と蝶、アリとアブラムシなど、お互いがお互いを必要として存在しています。

思えば、これらは「あたりまえ」のことですが、このあたりまえのことをきちんと見きわめるところから、仏教は出発したのです。「仏教」は、敢えて、頑張って信仰しなければならないような特別な教えではありません。

よりよい生き方の探求……仏教

このような真理に目覚めたとき、自ずと生き方が変わってきます。「因果の法則」をしっかりとわきまえることにより、日常生活の一つひとつの行いを大切にし、正しく生きようという思いが生じます。「共生の法則」を知ることにより、自分と他人、自分と環境を対立して見ることなく、自分と同様に他人を思いやり、自分と同様にあらゆる物大切にしようとする思いが生じます。そこに具体的な、いろいろな仏教的な実践が生まれてきたとも言えます。

また、仏教が最も重要な課題としたのが、生・老・病・死の苦しみからの解放でした。誰もが避けることのできないこれらの苦しみを、どのように克服したらいいのか、釈尊は自ら悩み苦しみ、遂にこれを解決し、そして人々を苦しみから救おうとしました。

結果的に仏教は、自分（の肉体）に対する執著や、これらの苦しみの対極にある渇愛（激しい欲望）に苦しみの原因があり、まずこれらを離れ、そして、生・老・病・死をありのままに受け入れることによって、苦しみを克服する道を教えたのです。

さて、仏教が説く「四諦説」は、さまざまな人生問題の解決方法を示したもので、苦諦（苦という現状）集諦（その原因）道諦（苦の解決方法）滅諦（理想的なあり方）を説いています。いわば問題解決の論理的基本マニュアルです。

そして、「八正道」という八つの実践を説いています。簡単に言えば、将来的・全体的な見通しを立てて（正見）、自分の立場を考えて（正思惟）行動し、常に思いやりのある言葉で人に接し（正語）、悪事を作さず（正業）、規則正しい生活の中で（正命）、世のため人のためになることに努力し（正精進）、常にはっきりした意識をもって生きること（正念）。そして、そのような生き方の基本には自分自身を静かに見つめる時間を持つ（正定）ということになります。いわば、よりよく生きるための実践的基本マニュアルです。

いま、ここを生きる……仏道

さて、これらの論理的基本マニュアルと実践的基本マニュアルに従って、いま、ここを生きる、それが「仏道」ということになります。

仏教の教祖釈尊も、それを代々伝えてきた祖師も、そして伝教大師、弘法大師はじめ、鎌倉仏教の祖師たちも、みなその場所その時代を真剣に生きられた方々です。具体的な生き方が違い、指導方法が違っても、それぞれ「仏法」「仏教」を基本として、それぞれの「仏道」を生きられました。

世界は今、平和・環境問題、教育・人権問題をはじめ、多くの問題を抱えています。この時代を、いかに生きてゆくか、それを考え、実践するのは、いま、ここを生きる私たちです。

仏教が与えてくれるもの

以上、述べたように、仏教が与えてくれるもの、それは「仏法」という現実世界の真理・真実のあり方です。それは「信じようが、信じまいが」事実であり、「関係あるとか、関係ないとか」「必要だとか、必要ないとか」、そういうものではありません。まず、仏教は、真理・真実を私たちに言葉によって明らかに説き、表現し、私たちに与えてくれています。

そして同時に、「仏教」という、現実世界をよりよく生きてゆくための基本的な理念・法則・智慧を示してくれています。

これら「仏法」「仏教」を基本とし、拠り所として、私たちがそれぞれの地域でそれぞれの時代を生きてゆく、それが「仏道」です。これは与えられるものではなく、自ら切り開き、歩んでゆくものでしょう。

現代日本では、仏教と言えば、「先祖供養」「葬式仏教」「現世利益」ということになってしまいました。これも仏教の歴史における必然的変貌であり、このように変貌することによって仏教は日本において現代まで生き延びてきたのかも知れません。しかし、真実の修行者は常に「仏法」「仏教」を基本として確かな「仏道」を生きることを、いつの時代でも、決して見失ってはならないでしょう。


続きを隠す<<

ところが不思議。今から七百八十年ほど前に、道元禅師がお悟りになったとき、この花をご覧になったというのです。そしてこんなことを言われています。

「なーんだ、日ごろ見ていたあの梅の花が、優曇華だったのだ。迷いの目で見ていたからそれに気付かなかったのだ。いや、梅の花だけではない、一切のものが優曇華なのだ。そうか、優曇華が〝まれ〟に咲くのではない。このように気付くことを〝まれ〟というのだ」と。

これ、何のことだかわかりますか？

もうすぐ梅の花が咲く季節、あれが優曇華なのですよ。あなたにはわかりますか？


続きを隠す<<

さて、仏教の教えに基づいて生活を共にする人々の共同体を「僧伽〔さんが〕」という。あるいは「叢林〔そうりん〕」ともいう。出家者のための、厳格な叢林は数多ある。しかし、一般人のための本格的な叢林はない。一般仏教信者による一般仏教信者のための新しい叢林の建立が実現すれば、その意義は大きい。

日常生活は、仏教の戒律に則った生活。建物や生活様式は、環境問題に配慮し、叢林の食糧をある程度まかなえる適度な広さの田畑があり、修行者が自ら耕して自然農法ができれば理想的である。

高齢修行者の介護なども、修行者同士で助け合って行うようにすれば、養護福祉施設としても一役買うことになる。老人ホームではなく、自己の向上を目指した修行道場であることが、意義あることである。介護する人もされる人も、それを修行と受け止めて、これらが無償で行われることは、すばらしいことである。

この新しい叢林は広く門戸を開き、社会と密接に関わりながら、相互扶助の形で存在する必要がある。叢林の修行者は、ある時は進んで一般のボランティアに参加し、特に環境保全活動や福祉活動において社会に奉仕し、これに対して一般社会の人々は、この叢林を経済的に援助する。そのような関係が望ましい。

この「新しい叢林の建立を」という〝夢〟も、まさに夢物語かも知れない。しかし、二十一世紀にはこのようなシステムが、全国各地で必要になるような気がするのである。

続きを隠す<<

布施ということ

この六つの修行の第一にあげられているのが「布施」です。布施というと、多くの方が、僧侶に対する法要のお礼のお金と思います。もちろんお金や物品を施すことも布施ですが、優しい言葉をかけることも、座席をゆずることも、笑顔で接することも、広い意味での布施といえるのです。お坊さんが、仏の教えを説くことも布施ですし、道元禅師さまは「貪らない」こと、過剰に欲しがらないことも布施であるとされています。

最上の布施

ところで、最上の布施は三輪清浄〔さんりんしようじよう〕（三輪空寂〔くうじやく〕）の布施とされます。三輪とは、施者（施しをする人）と受者（施しを受ける人）と施物（施す物）であり、この三つに全く執著のないことをいいます。私は、この施者に全く執著のない、すばらしい布施行の話として、瑩山禅師さまに広大な土地を寄進した夫婦の話を思い起こします。

瑩山禅師さまは四十九歳の春、能登（石川県）羽咋〔はくい〕の酒井保〔さかいほ〕の山地を、海野〔うんの〕三郎滋野〔しげの〕信直〔のぶなお〕夫妻から寄進を受けます。翌年、正和二（一三一三）年八月、ここに茅屋を結び、永光寺〔ようこうじ〕を開創されました。この永光寺寄進にあたってのいきさつが「洞谷山永光寺草創記」に記されています。

布施するこころ

この山地を寄進するにあたって海野氏は、次のように言っています。「私たちがこの山を寄付するのは、和尚さまが一時、ここにお住まいになることを望むだけです。その後の盛衰などは、どうであろうとかまいません。和尚さまが戒を持〔たも〕つ修行をされるも破戒の生活をされるも後のことはかまいません。他の誰に与えようとかまいません。いったん和尚さまに寄付したからには、後に再び返してもらおうとも、またいずれ私が管理しようとも思いません。永久に差し上げます。何も望む心はありません。」瑩山禅師はこの夫妻の清らかな布施のこころに感じ入り、ここを「生涯幽棲〔ゆうせい〕の寂静処〔じやくじようしよ〕」と定め、自分の終焉〔しゆうえん〕の地としようと決心されるのです。

見返りを求めない

私は、はじめてこの海野氏の言葉を知ったとき、大きな衝撃を受けました。見返りを一切求めない施し、いったん布施をしたからには後のことは一切関知しないという何の執著もない施し、布施ということはこういうことなのかと。

そしてまた、このような布施を受けられた瑩山禅師さまの御人徳を思い、海野氏にこれほどに慕われた瑩山禅師さまに、あらためて畏敬の念を抱かざるを得ませんでした。

その後、瑩山禅師さまは、能登櫛比庄（石川県鳳至郡）に總持寺を開かれますが、平成２３年は、その能登の總持寺が横浜の鶴見ヶ丘に移転して一〇〇周年にあたる記念すべき年です。お寺を移転するということ、それも一宗の大本山が移転するということは、稀有の大事業であり、多くの人々の協力や甚大な資金が必要でした。この大事業を成し遂げたのも、多くの人々の、大いなる布施のこころとその実践によるのだと思われます。


続きを隠す<<

現実の世界の受け止め方

この「現成公案」巻には、いくつかの譬喩が説かれている。



この船で海を行く時の例え話は、我々の現実世界の見方、受け止め方に限界があること、我々の見聞覚知する世界のほかに「よもの世界」があることを示している。

「宮殿」「瓔珞」の譬喩は、『摂大乗論釈〔しょうだいじょうろんしゃく〕』四の「一水四見〔いっすいしけん〕」を踏まえたものである。「水」という一つのものも、見るものに（主体・主観）よっていろいろに見られ得ることを示したもので、物事には種々の見方があるを述べている。そこから転じて、我々は自分の能力に応じていろいろなものを見ているのであり、その他にも異なった見方があることをしらなければならないというのである。

現実の世界を生きるしかない

この「現成公案」巻には、また、魚と鳥の例話が示されている。



この説示の要旨は、我々はこの現実の世界を生きるしかない、ということである。仏道を修証（修行の意であるが、修行がそのまま証りであるから修証という）する者は、「得一法通一法」「遇一行修一行」（一つのこと、一つの行いに専念するあり方）であるべきこと、いや、必ず「得一法通一法」「遇一行修一行」であることを述べたものであり、その様子を「鳥」と「空」と「命」、「魚」と「水」と「命」の譬えを用いて説明したものである。

今、ここ、このこと、を生きる

さて、この「現成公案」巻には、「薪と灰」の例えによる前後際断の時間論や、「水と月」の例えによる世界観、また「扇と風」の例えによる修証観等、さまざまな、道元禅師の思想の根幹に関わる説示が見られる。また、



という、自己と法の関わりを述べた有名な説示もある。

まさにこの「現成公案」巻は、道元禅師の中心思想が凝縮されている巻であるとも言えるのであり、その中で、いずれの説示に重きを置くべきかについては諸見があろう。

ただ、ここでは「現成公案」という巻目が付されていることを重んじ、「ありのままに現れている真実のすがたの受け止め方」と、「現実世界の生き方」に関わる、前述の二つの箇所を紹介した。

私たちは、自分が認識する能力の範囲において、この世界を見、この世界を生きている。自分が認識している世界（あり方）以外に、自分が認識できない多くの世界が有ることを知らなければならない。自分の認識したものこそ真実であり、自分の見方、考え方こそ正しいと考えてはいけない。

そして、それを自覚した上で、さあどう生きるのか。……それは当然ながら、仏道（仏の道）を生きるのである。仏法（ありのままの真理）の世界を、今、ここ、このことを仏教（仏の教え）にしたがって生きるのである。

さあ、その仏教・仏法・仏道とは何か、それを説かれたのがまさに『正法眼蔵』なのである。

続きを隠す<<

伝統をつくった禅

最初期の禅宗史文献とされる『伝法宝紀〔でんほうぼうき〕』や『楞伽師資記〔りょうがしじき〕』は、『楞伽経〔りょうがきょう〕』の伝統に立って、ダルマにはじまる禅宗の歴史を主張しようとするものであった。ついで、質量ともに最高の初期禅宗文献である『歴代法宝記〔れきだいほうぼうき〕』が出現する。これは、中国禅宗初祖の名を達摩多羅〔だるまたら〕（菩提達摩〔ぼだいだるま〕とは別人であるが、後に混同される）とし、それ以前のインドにおける歴代祖師の名（二十九代）を明記している。ここにおいて、釈迦如来から菩提達摩にいたり、六祖慧能〔ろくそえのう〕へと法が受け継がれる禅の歴史の原初の形態が成立したとされる。

中国仏教の異端として誕生した禅が、自ら異端の伝統を形成したのである。釈尊から一筋に連なった系譜は、後から求められた歴史であった。

我が師、釈尊

ところで、これら禅の燈史では、仏法が師から資（弟子）へと正しく受け継がれてきたというかたちをとる（師資相承〔ししそうじょう〕）。釈迦如来から摩訶迦葉〔まかかしょう〕へ、摩訶迦葉から阿難〔あなん〕へと、確実に教えが伝承され、当代にまで綿々と伝法が行われてきたとするのである。それは、現代にまで至るのであって、私が印可（伝法の証明）を受けた師は、さらにその師から印可を得、というように遡れば、釈尊に至る。それが禅宗僧侶の確信である。禅宗において釈尊は仏法の伝承の上では遠い祖先であり、遠いとはいえ確かに連なった親密な存在なのである。

それでは、いったいどのように〝法〟が受け継がれてきたのか、釈尊から摩訶迦葉への伝法の話として伝えられる「拈華微笑〔ねんげみしょう〕」の話を見てみよう。

釈尊は、霊鷲山〔りょうじゅせん〕の法会〔ほうえ〕で、ある時大勢の修行僧たちを前に、何も語らずにただ花をつまんで瞬目〔まばたき〕された（拈華瞬目〔ねんげしゅんもく〕）。これを見て、ただ摩訶迦葉がにっこりとほほえんだ（破顔微笑〔はがんみしょう〕）。そのとき釈尊は言われた、「我が正法眼蔵〔しょうぼうげんぞう〕涅槃妙心〔ねはんみょうしん〕を摩訶迦葉に伝えたぞ」と。

ここで、「正法眼蔵涅槃妙心」こそ、その〝法〟であり、釈尊は「拈華瞬目」によってそれを示し、摩訶迦葉は「破顔微笑」によってこれを受けたのである。すなわち釈尊は何も語らずに、法を伝えている。摩訶迦葉は何も語らずに、釈尊の証明をうけている。「正法眼蔵涅槃妙心」を私はあえて現代語訳しない。これは、言葉によって示すことのできない〝法〟を、かりに言葉によって示したものだからである。禅ではこのような法の受け渡しを「以心伝心〔いしんでんしん〕」という。言葉ではなく、心から心へと法は伝わるのである。

仏に逢うては仏を殺す

「仏に逢うては仏を殺す」。これは、中国臨済宗の祖、臨済義玄〔りんざいぎげん〕（？～八六七）の言葉である。臨済は言う、

修行者たちよ、他人に惑わされてはいけない。心の中においても、外においても、出逢ったものはすぐに殺せ。仏に逢ったら仏を殺せ。祖に逢ったら祖を殺せ。羅漢〔らかん〕に逢ったら羅漢を殺せ、父母に逢ったら父母を殺せ、親族縁者に逢ったら親族縁者を殺せ。そうしてこそはじめて迷いから抜け出して、物とかかわらない自由自在な境涯を得ることができよう。

（『臨済録〔りんざいろく〕』）

と。ここで「殺す」とは、実際に殺すことではない。「とらわれない」「まどわされない」ということである。「仏」とは仏教の開祖釈尊でり、「祖」とは釈尊の教えを受け継ぎ実践してきた祖師である。臨済は、釈尊にもとらわれてはいけないと言う。ここにまた、禅の釈尊観の特徴がよくあらわれている。

禅では、「不立文字〔ふりゅうもんじ〕、教外別伝〔きょうげべつでん〕」という。禅の祖師の多くは、大いに経典や論書を学んでいるが、しかしこれを学ぶことによって現実問題を真に解決できないことを知って、これらを捨て、自ら体究錬磨して、仏法（真理）を省悟（体得）している。たしかに、経典は「月をさす指」であり、真理を体得する道しるべではあるが、実際に自ら修行して参じ究めなければ、ほんとうに自分のものになったとは言えない。

「己事究明〔こじきゅうめい〕」という言葉があるが、自分自身を明めるということである。禅の流れを汲む道元〔どうげん〕も、仏の道を学ぶということは、自分自身を学ぶことである。

（『正法眼蔵〔しょうぼうげんぞう〕』「現成公案〔げんじょうこうあん〕」）

と言っている。

自分自身を明らめることは、自分自身がするしかない。他に学ぶ事も大切ではあるが、他に求めてばかりいて、ほんとうに自分のものにならなければ、自分自身も救われず、他を救うこともできない。

ぎりぎりのところ、仏をも捨てなければならない。外に仏を求め、その仏にとらわれていたら、内なる仏に出逢えないからである。外に仏を求めることをやめ、自分自身の内に仏を見つめ、これを明らめ得たとき、そのときが、ほんとうに仏＝釈尊に出逢うときなのである。

釈尊とは誰か

「無情説法〔むじょうせっぽう〕」という言葉がある。無情、すなわち心を持たないところの自然が仏の真理を説く、という意である。森羅万象はすべて仏であり、仏として、法を説いているというのである。

峰〔みね〕の色〔いろ〕渓〔たに〕の響〔ひび〕きも皆〔みな〕ながら
我〔わ〕が釈迦牟尼〔しゃかむに〕の声〔こえ〕と姿〔すがた〕と

（道元禅師和歌）

この和歌も、それを示している。これも禅の自然観であり釈尊観である。

仏といえば、何か崇高な、金色〔こんじき〕の、光り輝く特別な存在であるとわれわれは思う。しかし、禅の世界では、何気ないもの中にも仏を見る。

雲門文偃〔うんもんぶんえん〕（八六四～九四九）は、「仏とは何か」という僧の質問に対して「乾いた糞〔くそ〕だ（乾屎橛〔かんしけつ〕）」と答えている。質問した僧の、仏に対する〝とらわれ〟を打ち砕くために、あえて不浄なもので示したのである。

南陽慧忠〔なんようえちゅう〕（？～七七五）は、「古〔いにしえ〕の仏の心とは、どのような心か」との質問に対し、「牆壁瓦礫〔しょうへきがりゃく〕がそれである」と答えた。牆壁瓦礫とは、かきね・かべ・かわら・こいし、である。われわれの周辺にありふれているものである。それらのなかに仏の心を見よ、というのである。

釈尊とは誰か、仏とは何か……禅宗でのとらえ方を、少しばかり理解していただけたであろうか。

禅宗寺院をお参りするとき、他の仏閣同様、本堂や仏殿のご本尊を無心に礼拝していただきたい。そのとき、礼拜される仏は、無心に礼拝するあなた自身が、仏そのものであることを証明してくださっているに違いない。
続きを隠す<<

そこで、である。私、「坐禅などはいかがですか」、と勧めてみたいのである。決して楽しくはない。が、ストレスは感じない。そして、親しんでみると、実に気持ちがいい。

「坐禅健康法」あるいは「呼吸健康法」とでも言ったらいいだろうか、静かに坐って呼吸をととのえる。吸う息、吐く息に気持ちを集中する。そして頭の中で何も考えないようにするのである。

仏教には古くから「持息念」という修行法があって、呼吸に心を集中することによって、迷いや煩〔わずら〕いを解消してきた。この修行法は、呼吸に思いを置いて鼻の頭あたりに精神を集中して、心に雑念が起こらないようにするものである。

その他、仏教の冥想法や禅の坐禅法を参考にした、私なりの実践を紹介しておこう。坐っても、あるいは椅子に腰掛けても、どこでもできる行法である。

はじめに、姿勢を調える。背筋を伸ばして、背骨をまっすぐにして、背骨の上に頭が安定して乗るようにする。首に力を入れない程度に、ちょっとアゴを引く。両手はお腹のあたりに置く。ヒザの上でもいい。そして二～三回、深呼吸をする。鼻から大きく息を吸って、口から吐き出す。吸うときは、新鮮なよい空気を取り入れるような気持ちで吸って、吐くときは身体の中の邪気をすべて吐き出すような気持ちで吐く。これを二～三回くりかえす。

頭の中に雑念が浮かばないようにするために、呼吸に集中する。ただ坐っていると、頭の中で走馬燈のように次から次へといろいろなことを考えてしまっていて、それが日常の生活と何ら変わりないストレスになってしまうことになるので、そこで呼吸に集中することによって、心の働きを止めるのである。

まず、鼻から息が入ったり出たりしている状態を観察する。つまり鼻のあたりに心を置く。次ぎに、これをお腹の辺に落としていって、呼吸でお腹がふくらんだりへこんだりしているして辺りに心を置く。鼻とお腹のあたりの両方に心を置くのである。そして、その心を身体全体にひろげていく。そのとき、どこにも心を置くこともなく、しかも何も思考しない状態になる。

しばらくすると、また何かを考えていたりすることがある。その時は、また、鼻の頭に心を集中することからはじめる、というものである。

このような、いつでもどこでも、一人しずかに姿勢を調え、息を整えて坐るという実践を、私は行っている。乗り物に乗っているとき、あるいは病院で診察を待っているときなどにも。例えば、乗り物に乗っていて渋滞に巻き込まれてイライラしたりしたときに、姿勢を調え、息を調えると、イライラを解消することもできる。

「病は気から」とはよく言われることである。心の悩みやストレスが病気をつくるのである。息をととのえ静かに坐り、心を空っぽにする時間を持つこと。これは、すばらしい病気予防法と言える。

このようなことを目的とした坐禅は、道元禅師が教える正しい坐禅の本筋とは言えないが、坐禅に付随した功徳のひとつであることは間違いない。


続きを隠す<<

残された人の思いが営むもの

最近、多くの方々は、残された家族や親族に負担をかけたくない、迷惑をかけたくないという思いから、「あまりお金をかけずにひっそりと」「残された人の自由でいい、任せる」と思う人が多くなってきていると思われます。その思いは、実はお釈迦様の思いにも通じるものがあり、残された人への思いやりがうかがわれます。

そしてその思いを知りながらも、残された人は、懇ろに供養したいと思う、それがまた自然の思いであり、その思いもまた、お釈迦様を慕った信者の思いと同じであろうと思います。お葬式とはまさに、そのような、残された人の思いが営むものであり、果たさなければならない義務や、世間体で行うものではないと言えます。

慌ただしい現今の送葬儀礼

慌ただしく諸事に振り回されて、こころのこもった葬式が出来ていない、そんなことを感じることがあります。家族の逝去後、主治医への連絡（自宅の場合）、親族や知人への連絡、お寺や葬儀社への連絡、死亡診断書と死亡届の提出、火葬の申込み、湯灌や枕経の準備等を行いながら、並行して、ご葬儀の準備もしなければなりません。お寺や葬儀社との打合せ、会葬御礼ハガキの作成、遺影の準備、新聞広告の依頼など。

最近では、葬儀社がその多くを代行してくれますが、それでも喪主や家族は、故人を失った悲しみの中で、ゆっくり故人を偲び、最後の別れを大切にする暇もなく、慌ただしく気丈に、様々な準備を滞りなく行わなければなりません。

遠方に家族や親族がいる場合、枕経・火葬・葬儀と集中的に済ませたいという都合もあるかと思いますが、愛する家族との最後のお別れを告げる大切な儀式を、お亡くなりになってから二、三日中に慌ただしく全て済ませる今の慣習は、身内の者にとっては精神的にも肉体的にも大きな苦痛をともなうものであり、ゆっくり故人を偲ぶ肉体的・精神的余裕がないことは残念なことです。

こころのこもったお葬式を

長野県では基本的に葬儀の前に火葬が行われます（＊但し、お亡くなりになってから２４時間経過しなければ火葬はできません）。このことは本来の送葬のあり方ではありませんが、反面、火葬を先に済ませる風習は、時間的に余裕をもった、心のこもったご葬儀を可能にするものでもあります。

ところで、私たち僧侶の場合は、枕経と火葬は一般の方々と同じような日程で速やかに行われますが、葬儀は充分準備を整えて、一～二ヶ月後くらいに行われます。一般の方々より準備に時間がかかるという特別な事情もありますが、余裕をもって充分準備を整えて、葬儀の日を迎えることができます。

一般の皆さまも、まずは枕経と火葬に心を置き、これを済ませて、その後ゆっくりと故人を偲びながら準備をして、数日から一、二週間後に葬儀を行うようなかたちを、お考え頂ければと思います。お寺としても、葬儀社としても、充分な行き届いた対応が出来ると思います。これまでのやり方を急に変えていくことは難しいでしょうが、今後は、お寺や葬儀社と、皆さんとでいろいろと話し合って、こころのこもったよりよいお葬式のあり方を考えていきましょう。

曹洞宗で行われているお葬式の意義

ところで、お葬式は、それぞれの宗教や宗派において、それぞれの信仰に基づいて、重要な意義をもった儀式が営まれています。火葬して墓地に葬ればよいというものではありませんし、単なるお別れの儀式ではありません。

曹洞宗で行われているご葬儀は、「亡くなった故人に、み仏のお弟子になっていただく儀式」であり、それに先立つ「枕経」は、俗世との縁を断って髪を剃り、仏の弟子になるための支度をととのえる儀式です。

お葬式では、これから行く仏界での生活規則である「戒律」を授かり、仏界での名前である戒名を授かります。そして安心して仏界に旅立つことができるのです。曹洞宗のお葬式では、お釈迦様から代々受け継がれて道元禅師へと伝わり、そしてさらにご導師さまに伝えられた単伝・正伝のみ教えが、道元禅師が示された「仏祖正伝〔ぶっそしょうでん〕菩薩戒〔ぼさつかい〕作法〔さほう〕」に従って故人に授けられます。そして、ご導師さまのご引導の法語によって故人の生前が偲ばれて、仏界に導いてもらうのです。

先祖代々の宗教や信仰のある皆さんは、そのことをよく理解して頂きたいと思います。華美で贅沢なお葬式にする必要はないと思います。ささやかでもよいですから、意義ある、厳粛な、こころのこもったお葬式を営んで頂きたいと思います。
続きを隠す<<

通願と別願

結局のところ、先の四つの誓願は、人類の幸福と世界の平和を願うものであり、人間としてだれでも持たなければならない願いでありましょうから、これを「通願」といいいます。

しかし、この通願のほかに、その人その人の「別願」というものがあってよいと思います。その人の環境、個性、能力などによって、たとえささやかでもいいから、自分だけのひとつの願いを持つということも大切です。

比叡山のご開山伝教大師は、「一隅を照らすものは国の宝なり」と示しておられます。私たちの理想は、人類の幸福と世界の平和を実現することでありますが、社会の片隅で、そのささやかな身辺を明るく照らす人があるならば、そして「あなたがいてくださるから」と誰かから言われるような人になるならば、それが人生の生き甲斐というものであり、そういう人を国の宝というのであると言われるのでしょう。われわれみんなが掲げなければならない大きな理想を持ちながら、ひとりひとりは社会の片隅で、わずかに周囲を照らしてゆく、実践的な人間にならなければならないと思います。

昔、淀川を船で伏見から大阪へ往来していた時分、たまたまその川船に三人の若い坊さんが乗り合わせました。東大寺の公慶上人、曹洞宗の卍山和尚、黄檗山の鉄眼禅師の三人です。同じ船に乗り合わせたのも何かの因縁だというので、お互いに語り合いながら大阪へと下りました。

『般若経』の中に、「願心なきは菩薩の摩事なり」という言葉があるが、人間は何か願いを持たないといけない、という話題になり、「自分の一生に、これだけのことはぜひ成し遂げたいという一つの願いがないと、堕落してしまって大成しないであろう。お互いに一つ、願いを持とうではないか」ということになりました。

東大寺の公慶上人は、「私は、大仏殿が戦乱のために焼け落ちてしまい、大仏さまが雨ざらしになったままでいらっしゃるので、何とか自分の一生の間に、大仏殿を建ててさしあげたい」と述べられました。

曹洞宗の卍山和尚は、「禅宗は法灯をとうとび各自その法系を尊重するのだが、今日の曹洞宗は法脈が乱れてしまって、人から人へと法が伝わるべきところが、伽藍中心の法の相続になってしまっている。私はこのような嗣法の乱れを正したい。一生の間にこれをぜひやりとげたい」と言われました。

黄檗山の鉄眼禅師は、「仏教が日本へ伝来してもう千年以上も経っているというのに、我が国にはまだ大蔵経全部の出版ということがない。今もって中国の宋版、明版の経典や、朝鮮のお経を借りたり、それでなければいちいち写経してまにあわせているのだが、私は日本で大蔵経を全部出版してみたい。これは容易ならぬ大事業だが、かならずやってみせる」と語らせました。

このように、船中で三人がそれぞれ志を述べて誓いあったのでありますが、はたして公慶上人は二十年以上も全国を勧進して廻られ、宝永六年めでたく、今日世界最大の木造建築といわれるあの大仏殿の落慶法要をいとなまれました。また卍山和尚は梅峰和尚らとともに宗統復古の運動をおこし、ついに幕府まで動かして元禄十二年、その宿願であった法系嗣承の乱れを正し終えられました。鉄眼禅師は延宝六年、みごと大蔵経開刻の宿志を果たし、三人とも立派に所期の目的を貫徹されたのであります。

ことに鉄眼禅師のごときは、何万枚という版木を彫って刷る大蔵経の出版なので、莫大な費用を要するのでありますが、その資金をやっと集め終わったころ天保の飢饉が起こり、畿内では食べるに困り、路頭に迷うものがおびただしい数に上るにおよび、これを見た鉄眼禅師は、せっかく自分の事業のためにと辛苦して集めた金を、全部難民の救済に充て、またゼロからやりなおしました。二度目も、どうやら出版できるほどに金の集まったときに、また水害と飢饉が起こったので再び資金をなげ出し、三たび資金を集めて、三度目に初めてその目的を達成されたのであります。

この三人ほどの大事業でなくてもよいのです。ほんとうにささやかな、一隅を照らすだけのことでもよいのです。人類の幸福と世界の平和という大きな理想を持ちながら、そのために自分のできる精一杯のことを実践したいものです。まず、願いをもちましょう。

「念ずれば花ひらく」です。
続きを隠す<<

瑩山禅師の祈り

大本山總持寺の御開山瑩山禅師も、毎年正月には、世の平安を願い、風雨順調・五穀豊穣の祈りを捧げられました。瑩山禅師の御著『瑩山清規〔けいざんしんぎ〕』の「年中行事」に見られる正月三日の修正会満散の疏の文に、「普天得風雨調適、率土全豊饒慶祐。」〈普天〔ふてん〕、風雨〔ふうう〕の調適〔ちょうてき〕を得〔え〕、率土〔そつど〕、豊饒〔ほうじょう〕の慶祐〔けいゆう〕を全〔まった〕からんことを。〉と示されています。天下は風雨がおだやかに調和し、国土はすべて五穀豊穣であるように、天地神明のよい助けを得られますように、という祈りの言葉です。そして大衆（修行僧）とともに祈りの読経を行われています。このような祈願は、いずれの世でも変わらないものでしょう。

避けられない災害

ところで、毎年新年にこのようなご祈祷を行い、平和や安全を祈っても、次々と様々な天災がおこります。それらによって多くの人が被災し、多くの命が失われ、種々の災難に遭遇します。大自然の営みでは、時として日照りが続き、また長降りがあり、暴風もあれば、大雪もあります。今年もまた、いつ、どこで、どのような災害が起こるのでしょうか。私たちは決してそれらを避けることはできないように思われます。

大自然からの警告

しかし、現代の私たちは、大自然の運行の順調を願いながら、その順調を破壊する原因を自らがつくっているともいえます。地球温暖化しかり、大気汚染しかり。異常気象もそうかも知れません。私たち人間が、自然の運行を更に悪い方向へと変化させつつあることも否定できません。大自然の運行が、時に私たちに牙をむいて災害をもたらすのは、まるで、大自然の摂理に背き、私利私欲のために自然を破壊している人間たちへの警告とも思われます。

願い、実践する

いくら願っても、種々の災害から逃れることはできないでしょう。しかし、それでも私たちが願うということには、大きな意義があるはずです。瑩山禅師は、大慈大悲の誓願をおこされ、その願いを実践されて、多くの迷える人々を救われました。願うということは、実践することです。ほんとうに何かを願う人は、その願いを行動におこすものです。曹洞宗では「人権の尊重、平和の確立、環境の保全」を三つの願いとして取り組んでいます。とても大きな願いであり、簡単には実現できそうもない難しい願いです。しかし、みなさん一人ひとりが、それらを強く願うことによって、社会は少しずつ好転するはずです。

必ずよい年になります

新しい年を迎え、皆さんもそれぞれ心新たに、何か目標や希望をもっておられることでしょう。それらが是非実現しますように願うものです。そして、できれば曹洞宗の三つの願いのような大きな願いも持って、実践していただきたいのです。分け隔てなく慈しみの心をもって他に接し、お互いに相手を尊重して、対立し争うことを止め、環境を大切にしようと心掛けて生活をする。難しいことですが、日常生活の中で、これらが少しでも実践できれば、今年は必ずよい年になるはずです。


続きを隠す<<

ところで私は、英語を学んだり、難しい本を読んだりすることも、よりよく老いを生きるための有意義な学習であると思っている。と同時に、人間とは何か、いのちとは何か、生きるとはどういうことか、といった人生の意義を考えることは、老いてこそ本当に学べることであると思う。

とにかく、何れの学であっても学ぶということは大切である。知人のＫさんやＩさんも晩年学生であったが、卒業後も大いに諸学を学んでいる。今も交流があって、いろいろと教えたり教わったりしている。実によく勉強していて、かえって私が教わることの方が多い。そして、二人とも実に若々しいのだ。

老いたるは、なおうるわし

松原老師が、好きな詩のひとつとしてよく引用されるホイットマンの詩がある。

女〔おみな〕あり
二人行く
若きは　うるわし
老いたるは
なお　うるわし

二人の女性が道を歩いて行く。一人は若く美しい女性、そしてもう一人、年老いた、さらに美しい女性。

常識的には、若い女性の方が老婆に比べれば当然ながら美しい。肌も綺麗で張りがあって、髪もしなやかでかがやいている。若いということはそれだけでも美しくある。

しかし、ホイットマンは、共に行く老齢の女性を「なお　うるわし」という。おそらくこの女性は、老いているから美しいのではない。美しく老いた女性であったのであろう。

この詩は、老熟ということを、若さよりも優れたものとして文学的に表現したというのではなく、この老女は、実に美しく、感動的であったから、このような詩が生まれたのであると私は思う。いったいこの老女の美しさとは何だったのだろうか。

思うにそれは「老い」という単なる時間的経過によるものではなかったはずである。いかに老いたのか、そしてその老いの過程で得たものを、現在いかに表しているのかによるのであろう。

第二の人生

最近、停年退職を間近にして、第二の人生を出家者として生きることを希望する壮・老年層の人々が出てきている。きびしい社会情勢の中で早期退職を迫られての選択であることもあろうが、彼らの多くは、小さな庵にでも入って、経を読んだり、写経をしたり、念仏をしたり、坐禅をしたりして、「修行」という自分探しの第二の人生を歩みたいとこころざす。

中には、真剣に仏教を勉強すべく、昼間は職場に勤務しながら、夜間の仏教系の大学に入学して若い学生たちと共に学び、退職後は修行道場に入って修行し、いずれは住職となって小さな庵で暮らしたい、と精進している者もいる。

彼らは、寺に生まれ育ち、その成り行きで若くして僧侶の道を歩む、いわゆる寺の息子とは違っている。社会にもまれ、その中で社会人としての責任も果たし、一家をもって子を育て、既に子どもが自らの手を放れて、身も軽くなり、何か言いようのない虚しさを心に抱いて、出家を決意するにいたっている。

かつてインドには、人生の問題を解決するために、妻子を捨てて家を出て道を求めるという風習があった。おもにバラモン階級の人々における風習である。

七・八歳のころから二十歳頃までの学問の時代である「学生期〔がくしょうき〕」、その後結婚し家督を継ぎ家業に従事する五十歳位までの「家長期〔かちょうき〕」、長子が結婚して家督を譲り、家を出て森林に隠棲する「林棲期〔りんせいき〕」、林中での修行が完成し、人生問題が解決され、再び村落や都市に還って托鉢遊行する「遊行期〔ゆぎょうき〕」があったという。

家長期を無事終えて、家督を次世代に受け渡し、いわば社会的役割を果たし終わったところで、家を出て森林に隠棲する。夫婦で共に家を出ることもあったという。その目的は、人生問題の解決であったとされる。

思うに、一般的に若い頃は、「生きる」「生活する」「家庭を維持し、子を養育する」という、その「生きる」ということに精一杯であり、「生きる意義」などということは、悠長に考えている余裕もない。そのようなことをのんびりと考えている暇はないのである。しかし、先の四時期でいえば、家長期を終えようとする頃、一抹の虚しさとともに、人生とは何かを考えるようになる。人生問題を考える好機の到来である。第二の人生の始まりである。

このときこそまさに、我田引水の感もあるが、仏教に目を向けてほしいと、私はアピールしたい。

六十歳の大学生

私が奉職している大学には、社会人学生、あるいは年輩の学生が二割ほどいる。七十近くても立派な大学生である。当然ながら学生証ももらえる。ＪＲが学割で乗れる。豊富な図書を蔵する大学の図書館を自由に利用でき、様々なサービスを受けることもできる。もちろん、それなりの入学金や授業料を払わなければならないが。

二十歳前後の若い学生に混じって熱心に学び、遊びかまけている若い学生を教師に代わって教育してくれる者もいる。彼らは、自分の子どもほどの年令の学生と交流をもって実に若々しく、若い学生以上に元気である。

若い学生が、勤勉な壮・老年学生に、わからない部分などを聞いている様子を目にすることもある。おとなしい学生の中には、同年の若者以上に、彼らと親しく行動している者もいる。実にほほえましい光景である。

学生あり
二人語らう
若きは元気なり
老いたるは
なお元気なり

である。

いま、大学は冬の時代を迎えているという。少子化の影響をまともにうけるのはこれからである。少なからずの大学が経営困難となり、今後、伝統的学問の場が、各地で消滅してゆくだろう。

しかし、考えようによっては、大学は若者だけの学問の場ではない。壮・老年者の学問の場であってもよいのではないか。大学は、もっと一般社会人に門戸を開くべきであるし、一般社会人ももっと学習意欲を持つべきではないのか。

「生涯学生、臨終卒業」

の言葉をもって、勉強熱心な大法輪の読者を再び大学に呼び戻したいと思っている。
続きを隠す<<

話はやや逸れるが、竹友寮を出てアパート暮らしを始めた頃、私は師匠である父に、「仕送りは入らない」と言ったことがある。自分に試練を与えてみたいと、自ら苦学を志したのである。

時に師匠は、「働いて学費や生活費をかせぎながらでなければ、学問ができないような状況であるならば、それもよいだろう。しかし、自らそのような苦労を買うことは無用だ」と言い、学生の本分である学問を十分に行うことを勧め、私を諭した。

私はその後、親の仕送りを受けて、何不自由なく学生時代を過ごし、仏教の勉強に十分な時間を費やすことができた。今にして思えば、苦学の道を歩んでいれば、おそらく学費と生活費をかせぐことで精一杯となり、勉強どころではなかったであろうと思う。余談になったが、「苦労」ということについて思い起こすことである。

話を岡本先生の問いかけに戻そう。

釈尊は、六年間の厳しい苦行をなさったからこそ、無上のお悟りを開かれたにちがいない。同様の悟りを求めるならば、釈尊にならって苦行を行わなければならないということになる。

しかし、悟られた後の釈尊は、自らが行ったような、身体や心を極限まで苦しめる「苦行」は行ってはならないと言われた。であれば、釈尊を信じるならば、その教えをまもって、「苦行」は行ってはならない。

さて、どうだろう。「苦行」は必要なのか、不必要なのか。

ところで、釈尊の苦行は、呼吸を止めて肉体の極限の状態を体験したり、食を断って肉体の限界に挑戦したり、誰も近づこうとしない身の毛がよだつような当時の霊域に踏み入って静かに坐って恐怖心を観察したりと、かつて誰も試みたことがないような激しいものであったという。

そして、その結果、そのような「苦行」が無用であることを悟り、「苦行」を捨てて肉体を養い、生き生きした状態に戻して、その上で心を正しく保ち、そこから生じるところの智慧によって、成道を果たされたのである。このことに、まさに仏教の重要な立場が示されている。

仏教は智慧の教えであり、その智慧によって正しい道を歩む教えである。正常な意識活動を行えないような状態に、肉体を苦しめ傷つけ、正常な意識活動を攪乱することは、無用であるのみならず、かえって害を及ぼす。一部の新興宗教が行っている「洗脳」がそれである。狭い部屋に監禁し、繰り返しビデオを見せたりテープを聞かせたり、ひいては薬物を投与したり……、その危険性は言うまでもない。

かつて釈尊は、自ら「苦行」を行うことによって、そのことを悟られたのではあるまいか。であれば、私たちは、「苦行」という過ちを繰り返してはならないのである。

ところで、坐禅は「苦行」ではない。道元禅師は、

「正伝の仏法における坐禅は、悟りを得るための坐禅ではない。ただ、これは安楽の法門である。菩提を究め尽くす修証である。」

と言われている。

坐禅というと一般的には、悟りを得ることを目的とした修行であり、「苦行」であると思われている。しかし、道元禅師は、坐禅は安楽の行であり、それがそのまま悟りの行であり、仏の行であると言われる。

まさに、「苦行」が無用であることを知り、少女の供養を受けて肉体を養い、菩提樹の下で坐禅をされた釈尊の坐禅を、道元禅師は正しく伝えられているのである。

正しい信仰をもつ者は、特殊な驚異的体験や、そこから得られた特殊な能力を驚き敬ってはならない。仏教の正しい生き方（八正道）とは、

将来の見通しを立てて（正見）、自分の立場を考えて（正思惟）、やるべきことをやること。そして、思いやりのある言葉で人に接し（正語）、悪事を作さず（正業）、規則正しい生活の中で（正命）、世のため人のためになることに努力し（正精進）、常にはっきりした意識をもって生きること（正念）。そして、そのような生き方の基本に自分自身を静かに見つめる時間を持つ（正定）。

という常識的な生き方である。釈尊は、このことを悟られたのである。

釈尊の六年間の苦行の意義は、それを私たち仏教徒が繰り返すことのないところにこそあるのかもしれない。


続きを隠す<<