昭和五十八年七月に副住職に就任するにあたり、すでに檀徒総代会で後任住職としての了承を頂いておりましたので、住職遷化にともない自動的に副住職が住職となった次第です。
本来、寺院は住職(個人)の所有するものではなく、世襲すべきものでもなく、住職もまた寺院を支える者の一人であり、檀信徒の皆様すべてによってよりよいかたちで護持していかなければならないものであると思うからです。
さて、常円寺第二十七世佛山宗道大和尚の長男として生まれ、仏飯を頂いて育った私としては、その仏恩に報いるためにも、住職としてこの常円寺を護持していく責任があり、そして、多くの檀信徒の期待に応えられるような住職にならなければならないと思っております。
その一方で、曹洞宗あるいは仏教という広い視野の中で私が果たすべき役割とは何か、また、一僧侶(修行者)としてどう生きるべきか、を考えたとき、常円寺の檀信徒にとってよき住職としてのみ生きることは難しい、とも思っております。
住職の現況と今後
現在、私は常円寺住職を務めながら、駒澤短期大学(東京都世田谷区駒沢)の教授をつとめ、ほか曹洞宗総合研究センター等、曹洞宗門のいくつかの役職にあります。
肉体的にも精神的にもたいへんですが、それでも、今後も続けて行く決意をいたしました。
このような生き方について、これまで何人かの善知識(高徳の指導者)に相談してまいりました。皆、私の健康を心配しながらも、信念を貫き学僧(学問の道に志す僧侶)として生きることを勧めて下さいました。
私は今、宗門の徒弟が学ぶ大学において、僧侶あるいは将来の僧侶の育成にあたることができることに大きな喜びを感じております。
私自身、学生時代、恩師酒井得元先生より、「ほんものの仏法」(仏教の本来のあり方)を学び、現実の仏教(教団)のあり方に対する疑問を抱きました。そして、それを克服するかたちで今日の私があると思っております。
恩師の恩に報いるためにも、私は大学教員を続け、恩師から学んだことを、将来の宗門を担う若き僧侶に伝えていきたいと願っています。
私が大学を辞め、常円寺の住職に専念し、檀信徒のために葬儀や法事等の檀務に励むことを望む方々もおられるでしょう。
しかし、もし檀信徒の方々が住職に葬儀や法事を懇ろに務めることのみを求めるなら、私はそれだけが本来の僧侶のあり方とは思いませんので、私は葬儀や法事に専念できる方に職をゆずらなければなりません。
大智禅師は「縁あれば即ち住し、縁なければ去る」(ご縁があれば留まるし、ご縁がなければ去ってゆく)とおっしゃっていますが、私もそのような心境でおります。
ところで、このまま私が大学教員を続けた場合、土日を除く週3日は寺を留守することになります。
平日に法事が行われることはほとんどないので、法事に関してはこの留守は影響ありませんが、葬儀に関しては私の留守中に依頼があった場合に問題となります。
その時は、隣寺法類の住職を導師にお願いすることになります。
この点は何卒ご了承賜りたく存じます。
常円寺の将来について
核家族化が進み、家制度の崩壊が始まっています。家制度の上に立つ檀家制度は、いずれ行き詰まると言われています。
常円寺の檀家にも、家を後継する者がなくなり、墓地を守る者がなくなる、そんな檀家が次第に多くなってまいりました。
また、後継者がいても他宗教であったり、夫婦で違う宗教・信仰を待つ方々もいます。
信教は自由ですから、それらは認められるべきでしょう。
そもそも、「わが家は仏教だ」とか「私の家は曹洞宗です」とか、家単位に宗教があるということが未来社会においては有り得なくなっていくように思われます。
いずれ、何十年後かには曹洞宗寺院も「檀家制度」から「会員制度」へ移行していくことになるかも知れません。
つまり、「わが家は○○寺の檀家」というあり方から、「私は○○寺の檀徒会員」、というような形になっていくことも考えられます。
社会の流れに従って常円寺も変わっていかなければならないと思います。
伽藍整備について
平成十五年十二月、本格的な重層の山門が竣工いたしました。
檀信徒の方々のご協力の賜物と、心より感謝申し上げます。
是非、お寺にお立ち寄り頂いてご覧下さい。
規模は小さいながら、寺院の顔ともいえる山門が本来の形式で整ったことは、有難いことです。
さて、伽藍もほぼ整備されましたので、今後は本堂と庫裡の古い建物に修理を加えながら、古き良きものは保存する方針で、維持してまいりたいと思っております。
とはいえ、ここに懸念されるのは、いつ起こっても不思議ではないと言われる大地震に対する対策です。
山門建立に優先して対策を講ずるべきでしたが、このことはごく最近になって指摘を受けました。
現在、本堂は四〇~六〇トンとも言われる瓦屋根の重みが原因してか、棟を中心に東西(前後)に三寸~五寸程度柱が傾き歪んでいうようです。
大地震が起こった場合に倒壊の恐れもあります。一刻も早い対策が必要です。
一刻も早くとはいえ、山門建立事業が行われたばかりでもありますので、今後充分に調査し、検討・協議を行いながら、安全策を考え、もし現在の瓦葺きから銅板葺き或いはトタン葺きにする必要があるとなれば、その方向で考えていかなければならないように思います。
これが、可及的速やかな対応が望まれる短期的計画です。
長期的計画として、夢の構想があります。
これは夢のまた夢でありますが、その夢の構想としては、常円寺南の丸山公園の丘に伊那市街を展望できる五重塔を建立するというもので、一部の檀信徒の方々に話題を呼んでおります。
地下部分に、ロッカー式簡易墓地(納骨堂)を設け、これを分譲するかたちで、建立資金を勧募すれば、ご寄付をお願いすることなく実現できる可能性もあります。
もし、伊那の市街地に隣接する常円寺の丘に五重塔が建立されれば、伊那市の活性化にもつながると思われます。
葬儀・法要等について
檀信徒の皆さんがお寺と関わるのは、お葬式や法事の時が多いと思います。
これらの行事は、お寺にとっても皆さんにとっても大切な行事ですので、きちんと営まなければなりませんが、これまでの慣習に振り回されて、煩わしくなっている面もあります。
皆さんの率直なご意見をうかがいながら、改善できるところは改善してまいりたいと思っております。
教化活動について
常円寺では、主な年中行事として、修正会(正月三が日)、年賀受礼(一月十五・十六日)涅槃会(二月十五日)、花祭り(四月八日)、開山忌・大般若会(四月十五日)、夏季文化講座(七月二十日)施食会(八月八日)、盆賀受礼(八月十五日・十六日)等を行い、また、毎月の行事としては、坐禅会(毎月一日と十五日)・仏教婦人会(毎月一日)・写経会(原則として第三月曜日)・仏教大学(原則として第二土曜日)等を行っております。
これらの行事の改善・充実等も行ってまいりたいと思いますが、その一部を発展させて、毎月一度休日に、気軽に参加して、心を静めて自己を見つめることのできる「修行会」の開催も考えております。
おわりに
總持寺を開かれました瑩山禅師さまは、檀那(檀信徒)を大切にしなさいと示されています。
檀家あってのお寺だからです。
檀信徒の方々とともによりよいお寺づくりを行ってまいりたいと思います。
とはいえ、けっして改革そのものが目的ではありません。
重んじなければならない伝統や習慣もあります。
やみくもに改革を急ぐものでもありません。
痛みを伴う改革は宗教には相応しくないからです。
また、常円寺のみよければというわけにもいきません、他の寺院との関係もあります。
ところで、総代会で提案し、「常円寺檀徒会運営検討委員会」が発足することになりました。
ここに述べました様々のことについて充分に話し合いながら、よりよい方向に発展させてまいりたいと思います。
檀信徒の皆さまにおかれましても、ご意見ご要望等遠慮なくお寄せ下さい。
出来る限りそれを反映させてまいりたいと思います。
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